ロストで用を済ませたゼーシェリオン達は、魔族の国、ローシャリナ王国を訪れた。
自然の明かりはないが、魔法具が照らしている。
「ここへ来たのは良いが、問題がある」
「なんですの? 」
「月鬼とリナがどこいるか知らねぇ。あの二人組、王宮に大人しくいますっていう時が珍しいからな」
ひとまず王宮に向かってはいるが、いるとは限らない。もし、いなかった時は、使用人に聞いて知らなければ、何も手掛かりも無しに探さなければならなくなる。
「とりあえず、エレに土産買ってかねぇと。エレが好きそうなもので……ケーキとかアイスとかクレープとか」
「甘いものだと、フォルに後で見つかって怒られるというところまで考えておけ」
ゼーシェリオンとエンジェリアは、現在では魔力疾患と呼ばれている、特殊体質。そのため、魔力吸収量を増やす甘味系は制限されている。
だが、ゼーシェリオンもエンジェリアも、甘味系が大好物。時々隠れて食べているのだが、毎度フォルに見つかって怒られている。
隠れているから大丈夫というのは通用しない。
「……魔法石? それとか、魔法具とか……ケーキの方が良いと思うけど」
「それなら喜ぶだろう。あとは、リボンとかは? 」
「良いですわね。エレはリボンとか好きですから。青系か緑系が一番好きな色と以前聞きましたわ」
青系と緑系と聞いて思いつくのは、ゼーシェリオンと普段のフォルの瞳の色。
エンジェリアらしい好みではあるのだろう。
ゼーシェリオンは、エンジェリアに、青色のリボンを買った。
「なら、こういうのとか……ヴィマ⁉︎ なんでこんなところにいるんだ? 」
紺色の髪のメイド服の女性。ゼーシェリオンが、この国の国王月鬼に仕えるように頼んだロストの住民だ。
「ゼーシェリオン様。リナへのプレゼントを探していたんです。今日は休暇なので」
「休暇かー。なら、あの二人の居場所とか知らねぇよな? 」
「恐らく、森の方で魔物討伐されてるかと。今朝、チェグと一緒に行くところを目撃しました」
「さすが元諜報員。本当に良く見てるな。戻れとは言わねぇが、この国にも関わる事だ。一つ頼まれてくれねぇか? 」
「わたくしは、ゼーシェリオン様に忠誠を誓っているのです。いくらでもお申し付けください」
「この国に神獣や御巫がきたら教えて欲しい。この国から離れたくねぇだろうからな。外に出ず、なるべくリナの側にいてやれ。友達なんだろ? 」
ヴィマは、この国の王妃スヴィリナの初めての友人。スヴィリナがこの国へ来た時からずっと側で仕えている。
ヴィマは、腰を曲げ
「お心遣い、感謝いたします」
と言った。
「相変わらず綺麗なお辞儀だな。確か、リナの教育もしたんだったか。俺らは、エレの土産買ったから、あの二人探し行く」
「いってらっしゃいませ」
ゼーシェリオン達は、月鬼とスヴィリナを探すため、森へ向かった。
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王都からはそこまで離れていないところに森がある。
そこは、魔の森のように魔物が大量にいるというわけではないが、強力な魔物が、時々出現する事がある。
「……いない。魔物の気配もない」
「もう終わったんじゃないか? 」
「ああ。なら、王宮へ戻ってるはずだ。急いで戻ろう」
またどこかへ行ってしまうかもしれない。ゼーシェリオン達は、走って、王宮へ向かった。
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王宮まで走って三十分。王宮へ着いたところで、転移魔法を使えば良いという単純な事に気がついた。
「なんでこんな、走ったんだよ」
「体力的には余裕でしたが、転移魔法に気づいた落胆が」
「しかも、途中でじゃなくて、王宮ついてから。もうすでに遅いとしか言えないというのが余計に」
「とりあえず、ついたから、執務室あたり探すぞ」
月鬼がいる可能性が高いのは執務室。そこへ向かおうとしたが
「ゼーシェリオン様? 今陛下いませんよ? 」
「は? 」
「先ほど、街に行きました」
「どの辺だ? 」
「リナ様と依頼屋の掃除へ」
ゼーシェリオン達が、ローシャリナ王国で情報を集めるために開いていた依頼屋。
今度こそいると信じ、転移魔法で依頼屋へ向かった。
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可愛い生き物にお任せ。略して可愛いお任せ。フォルの字で書かれている看板。
中へ入ると、ようやく、目的の月鬼とスヴィリナに会う事ができた。
「やっと見つけた。短時間でどんだけ移動してんだよ」
「どうした? 」
「頼み事だ。つぅか、まだここあったんだな」
「ここには、かつての魔族の国のものが多く残ってる。歴史的に価値のある建造物だ。それに、また、始めたいと言うかもしれない」
かつての魔族の国のものが多く残ってるいるのは当然だろう。ゼーシェリオンが、魔族の国の王であり、その時の造りで建てたのだから。
「本当に歴史好きだよな」
「そうだな。そう言えば、掃除していてこれが出てきた」
記録魔法具。これは、声を録音するタイプだ。
ゼーシェリオンは、魔法具を起動させた。
『これを見てる時、君は記憶を思い出してる? ごめん。こんな形じゃないと、言えないと思ったから。君は、魔族の国と天族の国の戦争を止めた。これは、その後に録音したものだ』
『ふぇ……ひっぐ……』
『あの日からずっと、エレは泣いたまま。明日、僕はエレと結婚する。結婚式を挙げて、一晩だけ、夜を共にする。それだけだけど。その前に、直接言えない事を一緒に言おうって、録音したんだ』
『ごめんなさい。ぐす、全部、知ってたのに、ぐす、止める事できなかった。やだったの。でも、あんな笑顔見せられて、止めるなんて、できなくて……ぐす……ゼロは、みんなが笑ってる世界が良いって言うから、その夢を、怖す勇気なくて……ごめんなさい』
『エレは、君がいなくなってから、君を探した。君に会う事ができた……なんで、なんで一人でこんな事を……エレにずっと一緒だって言ったんだろ! なら、ちゃんと約束守ってやってよ! 僕は、エレとゼロと一緒にいたいだけなのに……なんで、いてくれないの』
記録魔法具の録音はここで終わっていた。これを聞いたゼーシェリオンの瞳から、涙が流れた。
「ごめん。ごめん」
――お願い。エレの声を聞いて。気づいて。
今一番聞きたくない声。それが聞こえてきた。
――エレ? ……らぶ?
――ぷみゅぅ。らぶなの。エレ、フォルらぶなの。
――エレ様?
――ぴにゅぅ。繋がったの! エレに協力して欲しいの。詳しい説明省くけど、アスティディアを守る大結界を作りたいの。ゼロは、エレのためにがんばるの。エレ一人だと、大結界の最後の繋げるのができないから。
いつも通り、分かったと言わなければ、そう分かっていても、そうする事ができない。
――や……やだ……エレ、ぎゅぅしてくれない……でも、でも、エレのためにやる。
甘えてるだけと思わせるように、ゼーシェリオンは、そう返した。
――ぷみゅ。お願い。
エンジェリアの声に合わせて、結界魔法を使った。
「……エレ、フォル……今は、呪いの方が先だ。月鬼、この花で、魔物になった人達を助けて欲しい。魔物化した人のところで振れば良いだけだから」
「分かった。引き受けよう」
「ああ」
ゼーシェリオンは、月鬼に解呪の花を渡した。
「ルナ、エルグにぃ、少しだけ、行きたい場所があるんだ。エレとフォルは、ここでずっと手紙を書いていたんだ。俺が、エレ達のその後を知る時が来たら見てくれって、言われていたんだ。その手紙を取りに行きたい。ここの隠し扉の先にあるらしいから。待っててくれるか? 」
エンジェリアとフォルは、自分達がその存在を言わずとも、いつかは気づいてくれると知っていたのだろう。その時のために、ずっと手紙を残していたのだろう。
「良いですわよ」
「俺もだ」
「ありがと」
ゼーシェリオンは、涙を拭い、部屋の奥にある隠し扉を開いた。
「この先は、情報を得るために使ってた部屋以外にも、俺らの寝室とかあるんだ。この隠し扉は、俺らの許可がねぇと開かねぇから、エレの安全を考えてこうしたんだ」
手紙があるのは、エンジェリアとフォルの寝室。ゼーシェリオンは、一人で手紙を取りに向かった。