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13話 愛姫


 宝剣を手にした後、エンジェリア達は、アスティディアに転移していた。


 アスティディアは、ノーヴェイズが設計制作した魔法具や魔法機械でかなり発展している。

 宙に浮かぶ、巨大な建造物が目立つ。その中は、ノーヴェイズ最高傑作である、世界管理システムがある。


「……ルーにぃ、エレはあれが欲しいの。だめ? 」


「質の良い魔法石だな。一つしかないが良いか? 」


「みゅ。良いの。ルーにぃ用だから。何かあった時のために、ルーにぃに浄化石を作るの。それで、ルーにぃ少し安全」


 エンジェリアは、イールグの安全を考えて魔法石を強請った。


「ついでにこれも買ってやろう」


「ふみゃ⁉︎ そ、それは、あの、有名な、連絡魔法具の初期型⁉︎ ほ、欲しいの! 欲しいの! 」


 イールグが、エンジェリアに、初期型連絡魔法具を魔法石と一緒に買ってくれた。


 エンジェリアは、言葉が出ないほど喜んでいる。


「気に入ったか? 」


「ぷみゅ。ありがと。それと、これ」


 エンジェリアは、イールグに浄化石を渡した。


「感謝しよう」


「ルーにぃが買ってくれたからなの。エレがルーにぃに感謝なの。ていうか、さっきからゼム何してるの? 」


 ゼムレーグが、きょろきょろと何かを探しているようだ。


「アディとイヴィがいないか探してる」


 エンジェリア達がアスティディアに来た目的。それは、エンジェリア達、ジェルドの仲間、アディとイヴィがここにいるらしいからだ。


「二人がどこにいるか分からないから、こうして探さないと」


 ――……ぷみゅ。アディ、イヴィ、エレがここにいるの。エレがここにいるからくるの。聞こえてなくても、気づいてなくてもくるの。ってやって来てくれれば楽なのに。あと、髪重いの。


 ゼーシェリオンならこれでくるのにと思いながら、エンジェリアも二人を探す。


 だが、アスティディアはかなり広く、中々見つける事ができない。


      **********


 エンジェリアは、十分ほど探すと、飽きて買い物に戻った。


 イールグと一緒に、野宿の時に使えそうな食材を買っている。


「愛姫⁉︎ まさか、本当にいたなんて」


「愛姫様。なんとなく、声が聞こえた気がしたので。遅くなり申し訳ございません」


 ゼーシェリオンならできるのにと思ってやっていた事が、まさかの成功していたようだ。


 エンジェリアは、目をぱちくりとさせた。


「本物なの。あれが伝わったの。嘘なの⁉︎ 」


「エレ、なんでそうなってるの? エレの声、オレもなんとなくだけど、聞こえた」


 ゼムレーグにも聞こえたとなれば、エンジェリアは知らなかったが、一定の距離なら、ジェルドの仲間に声を届ける事ができるのかもしれない。その声を鮮明に聞き取れはしないようだが。


「今の愛姫の仲間か? 俺様は、アディ。アディ・クィーモ・アットティードだ。よろしくなぁ」


「イールグ・ギュリン・ジェリンドだ。よろしく頼む」


「イヴィ・ゴンゴッディ・フフーリンです。よろしくお願いします」


「ぷみゅ。それより、エレ達のお願い聞いて欲しいの。ついでに、お話があるの」


「では、我々が使っている別荘へ案内いたします」


「転移魔法使うだけだけどなぁ」


 イヴィが、転移魔法を使い、別荘へ転移した。


      **********


 イヴィの部屋はいつも綺麗だった。アディは色んなものがその辺に置いてあった。


 そんな二人が一緒に使っている別荘。そこは、半分綺麗で半分散らかっている。


「アディ、エレが咳き込むからもう少し片付けしてよ」


 ゼムレーグが、そう言って、浄化魔法を使う。


「ぷみゅ。ゼム優しい」


「エレ優先だから」


「ぷみゅ」


 エンジェリアは、ゼムレーグに抱きつこうとしたが、ゼムレーグの事を考えてやめた。


「よろしく帰って来ましたね。ゼム」


「おう。ずっと待ってたぜぇ。おかえり」


「うん。ただいま」


「それはそうと、アディ、ゼムもこう言っているでしょう。我々は、いつでも愛姫様を迎えられるようにしておくべきです。散らかすなとは言いません。せめて、埃だけはとっておきなさい」


「へいへい。ほんっっっとにお堅いよなぁ、イヴィ」


 喧嘩になる予感。エンジェリアは、それを察した。


「ぷみゅぷみゅ。そんな事より、お話なの。それとお願い。魔物になっちゃった人を元に戻して欲しいの。お花渡すから」


「フォルの花ですね。承知しました。それと、話は、私の考えているもので間違いないですか? 」


「……みゅ? 」


「うん。間違いないよ。映像視聴魔法具もあるから、それで、二人もどうするか決めて欲しい。こういうのは、オレ達全員で決める事。でしょ? 」


「そうですね。では、始めましょうか。イールグ殿、そちらのソファへ座ってください」


 エンジェリアは、映像視聴魔法具を起動させる。


「ぷみゅぷみゅ。これをこうすれば……できたの。これで、ルーにぃの記憶を見れるの。ルーにぃ、見て良い? 人となりを見るくらいだから、ほとんどエレが知ってるような内容。フォルとの出会いとか」


「必要なんだろう。それなら、答えは決まっている」


「ぷみゅ。ありがと」


 エンジェリアは、イールグに確認した後、記憶を見れるように設定した。


「これで良いの。視聴開始なの」


      **********


 イールグの記憶の一部。初めて会うアディとイヴィが、イールグがどういう人物か知れる部分。それを視聴し終えた。


「私は、教えてもよろしいと思います」


「俺様も同意見だ」


「オレは、エレが決めれば良いと思う。最終判断は、愛姫が下す。だから」


 ゼムレーグ達の意見を聞き、エンジェリアは、椅子を持って来て、イールグの向かいに座った。


「イールグ・ギュリン・ジェリンド。今から、私がする話は、この世界ができる前の話です。それは、神獣では、機密扱いされている情報。聞く覚悟はありますか」


 落ち着いた声音で、イールグに問いかける。これが、最終確認だ。


「当然だ」


「私達はジェルドと呼ばれてます。それは、知っているでしょう。私は、愛姫。ジェルドの王の中でも、愛姫は別。愛姫は、ジェルドな王達をまとめる役割を持っております。アディは、炎ジェルドの王。イヴィは、風ジェルドの王。王は二十と二人。愛姫を除いて。今は、これだけしか話せません。知っている内容が多いと思いますが。これ以上の事は、私達でも、知らない事ばかりなので」


「今は、という事は、後々教えるという事か? 」


「ええ。そのために、今覚悟を問いたのです……ぷみゅぅ。お仕事完了なの」


 エンジェリアは、そう言って、ゼムレーグに、頭を撫でるのを要求しに向かった。


「お疲れ。良く頑張ったね」


「ぷみゅ。がんばったの。愛姫はお疲れなの」


「愛姫様、ジュースをお持ちしました」


「夕食作ってくらぁ」


「ぷみゅ。ありがと」


 愛姫を頑張ると、ゼムレーグ達が、甘やかしてくれる。毎回そうというわけではないが、甘やかしてもらえない方が少ない。


「一つ、質問良いか? 」


「ぷみゅ? 」


「二人というのは、双子だからか? 」


「ぷみゅ。そうなの。ゼロとフォル。双子だから二人増えるの。それより、ルーにぃ、今日は休んで、明日、ジェルドの遺産を探して欲しいの。アディと一緒に。きっと仲良くできると思うから。エレ達はその間に、ちょっとだけ気になった事をやるの」


 アスティディアは、雨。エンジェリア達は、雨に濡れながら、アディとイヴィを探していた。

 エンジェリアは、水に濡れて髪が重いと思っていただけだったが、別荘について、映像視聴魔法具を起動中、肌が赤くなっているのに気がついた。


 ゼムレーグとアディとイヴィは、赤くなっている。イールグだけは赤くない。恐らく、エンジェリアの渡した浄化石のおかげだろう。


「気になる事? 何かあったのか? 」


「エレのお肌。雨に濡れて赤くなってる。ゼム達も。ルーにぃ以外みんな。思い出してみれば、買い物してる人とかもそうだったの。多分、管理システムになんらかの不具合が生じている。それが原因で、こんな雨が降っているんだと思うの」


「フィルいないのに大丈夫? 」


「だからゼムとイヴィを連れてくの。二人がいれば、エレができない部分を補ってもらえるから」


 ゼムレーグは、処理能力が高い。イヴィは、知識が豊富で、魔法機械に関しても、かなり詳しい。


 ――一番欲しいのは、ノヴェにぃなんだけど……


 設計制作を両方手掛けているノーヴェイズであれば、世界管理システムの勝手が分かっている。だが、ノーヴェイズは、邪魔変魔法の影響で魔物化している。


「……ごめん。ノヴェにぃ」


 同じ魔法具設計師として、やりたくはない事。だが、それをしなければ、分からない事は多い。世界管理システムの不具合を見つけられたとしても、直す事ができないかもしれない。


 エンジェリアは、両手で拳を作る。


「ゼム、イヴィ。明日、管理システムのところへ行く前に、ノヴェにぃの設計図を王宮から探す。じゃないと、あの複雑な魔法機械をほとんど何も知らないまま直すなんてできない」


「それなら、俺が持ってる」


「ふぇ⁉︎ 」


「ノヴェから貰ったんだ。複製だが。貰った本人が見せるんだ。別に罪悪感を感じる必要はない」


 イールグは、ピュオとノーヴェイズを選んだ黄金蝶。エンジェリアも、フォルに設計図を渡すのと同じように渡していたのだろう。


 エンジェリアは、イールグから、設計図を借り、一晩かけて、世界管理システムの構造を頭に入れた。

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