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12話 エクランダ帝国


 フォルとフィルが最初に向かったのは、エクランダ帝国。


 フォルとフィルは、楽しく買い物をしていた。


「どれにする? 」


「これ。それと、ドクグリクッキーも」


「君に聞くと全部珍味になるね。別に良いけど」


 フィルは、珍味好き。ここへ来てから買ったものは、ほとんど珍味関連のもの。


「あっ、これエレに似合いそう」


「そうだな」


 フォルとフィルは、ただ楽しく買い物をしているわけではない。買い物をしながら、ある情報を集めている。


「ええ。大丈夫なのかしらねぇ。淵帝様の時は、こんな事なかったのに」


「淵帝様の後継と言われて期待してみれば」


「淵帝様に戻ってきて欲しいわ」


 淵帝と呼ばれる先代皇帝エクルーカム。現在は、管理者として働いている。


 エクルーカムは、管理者になる前に皇帝を退き、唯一の弟子に後を継がせた。その弟子の事が気になるようで、エクルーカムがその弟子を心配するような話をしているのを聞いている。


 花を渡すついでに、優秀な部下のために何かできればと、噂を集めていたが、現皇帝はかなり評判が悪い。


「……フィル、これとか良くない? 木でできてるから安全だよ」


 フォルは、木の剣を二つ購入した。


「これで何をする気だ? 」


「後のお楽しみ。欲しいものはある程度揃ったから、宮殿の方へ行こうよ。新皇帝に挨拶できてなかったから」


 フォルは、そう言って、フィルと一緒に宮殿へ向かった。


      **********


 皇帝との謁見。皇帝は、玉座に座ってはいるが、威厳というものは存在しない。可愛い少年が、玉座に座って、小さくなっているとしか見えない。


「なんですか。帰ってください。ぼくには、こんなの向いてないんです。どうして師匠は、ぼくに継がせたんでしょう」


「噂通りの腑抜けっぷりだな。淵帝の唯一の弟子と聞いて期待したが、期待はずれだったな」


「期待はずれですみませんね。そもそも、貴方が師匠を推薦しなければ、師匠がここに座って、ぼくは、座らずにすんだんですよ。師匠を返してください」


「勘違いしてるようだけど、淵帝は、自分から管理者になると言ったんだ。僕はただ、それを叶えただけ」


 フォルは、淡々と言う。


「貴方が師匠に期待したからでしょう。期待期待期待って、みんな期待ばかり言って。期待が外れれば、こんなものかと落胆されて。ぼくが何したって言うんですか。期待したのはそっちでしょう。良いですよね。貴方は、期待に応えられるだけのものを持っているんですから」


「期待に応えなければ? そんなの、どうだって良いだろう。君の言う通り、期待なんて相手が勝手にしてる事。そんなのに一々応える理由なんてない」


「分かったように言わないでください! 何も知らないでしょう! 期待に応えられない人の事なんて! 」


 皇帝が、声を荒げる。


「フォル、ここは穏便に」


「必要ない。期待に応えられない人の事なんて分かるわけない。期待に応える暇があるなら、少しでも禁止魔法の使い手を探す。情報を集める。僕らはそうしてきたんだ。期待なんて気にしていられないほどの訓練を受けてきたんだ」


 フォルとフィルも期待される側。だが、期待に応えられない事などいくらでもある。だが、それにばかり気を取られていればどうなるか。それを身をもって体験している。


「そんなの、貴方が特別だからでしょう! ぼくは、何も特別ではないんです! そんなのできるわけないでしょう! 」


「特別? 特別ってなに? 特別だからできるんじゃない。守りたいものがあるから。そうしないとと知っているだけだ」


 ――新皇帝クルカムは確か、神獣の卵だったか。なら、いずれは知る事になる。それが、卵の状態でも変わらない。


「大昔実際にあった出来事だ。ギュリエンという場所があった。そこで神獣同士の争いが起きた。一人の神獣は、多くの神獣を守る立場にあった。その神獣なら守ってくれると期待されていた。仲間からも。神獣は、仲間と別れ、多くの神獣を助けに行ったんだ。助けて、帰ってくると、仲間は動かなくなっていた」


「……」


「仲間に守られていた姫から話を聞いた。そうしたら、その神獣は、必ず助けてくれるからと言っていたらしい。その助ける相手が誰であったかなんて知らない。今もずっと、それを知らないまま生きている。神獣は、多くの期待のために、最も大事にしていた仲間の期待を裏切ったんだ」


 フォルの過去。消えない罪の話。


 両手をぎゅっと握っている。そこに。フィルの温もりを感じた。


「もう一度言うけど、僕らが期待を気にしないのは特別だからじゃない」


「……その少年は、なぜ、今こうして前を向けるんですか? 」


「仲間の期待を裏切った事を謝るため。どれだけ時間がかかっても、絶対に見つけるため。そのためにその少年は、今もずっと探し続けるんだ。前を見るんだ。諦めたくないものから、逃げないんだ」


 それは、エンジェリアがいなければできなかっただろう。フォルの今は、エンジェリアがいてくれたからこそある。


「君は、ここが、エクランダが好き? 」


「そんなの当然じゃないですか! ぼくは、師匠とここが好き。ここの帝国民が好き。好きじゃなければやってませんよ。好きじゃなければ、こんなに悩みませんよ」


「そっか。その相談に乗る前に、その言葉を言ってくれて嬉しいよ。それに、さっきまでは違ったけど、今は、僕を見てくれている。君の言う特別じゃなく、僕を見てくれてありがと」


 フォルが自らの過去を話す前、皇帝クルカムは、フォルではなく、なんでもできる特別な存在を見ているようだった。だが、今は、フォルの事を見ている。


「君は、自分に自信がなさすぎるんだ。自分になんて初めから難しいだろうから、自分に目をつけた師匠を信じてみるのはどう? 」


「師匠を? 」


「君の師匠は、君が自分を超えるものを持っているから弟子にしたと言っていた。まずはそれを信じてみない? 」


 フォルが、管理者に推薦した時に聞いた話。フォルも、エクランダ帝国を心配して、本当に良いのか確認していた。


「……できる、でしょうか? 」


「さぁ? それは君次第だよ。しばらくここはエクー……君の師匠に任せる。その間に僕らが君を教育してあげる。僕らがやってきた事だから、危険な事は多い。それに、教育中に、管理者の仕事もやらせる。管理者の仕事という名目で、他の国を回って、色々と勉強できるだろ? 」


 クルカムは、エクルーカムの話によると、この帝国から出た事がない。他の国など知らない。


 エクルーカムからもらったクルカムの情報。フォルは、その情報を元に、クルカムが知らない事を中心に、自分ができる事を提示する。


「それだけで、変われるものですか? ……いえ、やらせてください。でも、その前に、何をするか教えてください」


「僕ら黄金蝶がやる訓練と帝王学とか諸々。皇帝に必要な事。管理者の仕事は、情報収集とか、危険魔法の取り締まりで、負傷を最小限にするように指示を出す。それと、管理者の勉強を教えるとか、訓練参加とか」


 具体的には何も言わない。だが、これでクルカムの質問には答えているだろう。


「……分かりました。よろしくお願いします。えっと、師匠はあの淵帝だけが……管理者様? 」


「普通にフォルで良いよ。管理者のみんなもそう呼んでいるから」


「よろしくお願いします。フォル様」


 前向きなクルカムの答えに、フォルはにっこりと微笑み


「じゃあ、早速魔の森に行こうか」


 と、明るい声で言った。


「えっ⁉︎ 」


 フォルは、問答無用で転移魔法を使った。


      **********


 魔の森ギチンブ。他の魔の森と比べても魔物が多いのが特徴だ。


「僕らはやる事があるんだ。大丈夫。大怪我しない程度に加護をつけておいてあげたから。僕らが戻ってくるまで、頑張ってここで生きてね? あっ、それと魔法禁止だから。これ付けといて。武器は、この木の剣を二本あげる。一本折れても、もう一本あるから安心でしょ? 」


 フォルは、終始笑顔で説明した。説明を聞くクルカムは、青ざめている。


「あの、師匠からはもっと優しいと聞いていたのですが」


「フォルはこれでも優しくしている。おれ達の時はもっと酷かった。魔物が多い上に環境が酷い」


「そ、そんな場所で……そうですね。優しくしていただいているようです。それに、そんな事で弱音を吐いていては何もできません。分かりました。ここで生き抜いて見せます」


「そうか。加護が使われたのが十回未満なら、褒美をあげるよ。必ず、来るから。だから、それまでどうにかがんばって」


 呪いの聖女の件が解決しなければ、ここへ戻ってくる事などできない。必ず戻るためにも、呪いの聖女件の解決はできないと言う事はできない。


「あの、フォル様、お気をつけて。ぼくは、ここで信じて待ってますから」


「ああ、ここでも噂は届いてたか。待ってて」


 フォルは、そう言って、転移魔法を使った。

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