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10話 ロスト王国


 エンジェリア達と別れ、ロスト王国へ転移したゼーシェリオンとルーツエングは、王宮を訪れていた。


「みんな久しぶりだな。って、何してんだ? 」


 ロストの王族達が、玉座に集まり何かしている。


 ロストにとって、玉座はただの飾りだ。これに深い意味などない。


 国ができた当初は、の話だが。


 時が経つに連れ、ロストの在り方は、一度変わってしまった。


 一人の国王が統治し、国王が権力を振りかざす国へと。


 本来、ロスト王国というものは、王なき王国。お飾りの玉座に、創立者の選んだ、国の守護者が名ばかりの王族としている。そこに争いはない。魔物に怯える事などない。そんな平和な国だった。


 今は、それが戻っている。王族達は、仲良く国の平和を今日も守っている。


 はずだったのだが


「何ってみりゃぁ分かんだろお? 」


「玉座など必要ない。破壊するに限る」


「って言っても、この玉座丈夫すぎっから、爆弾でも使わないと破壊できそうになくって」


 王族達は、仲良く玉座破壊計画を実行していた。


「国なんだから玉座は絶対条件つったの、お前らだろ! 」


 ロスト王国の創立者はゼーシェリオン。始まりは、一人の少女と出会った事だった。


 そこから、エンジェリアとフォル達の協力もあり、平和な国を築きあげた。


 ロスト王国の住民。それも王族ともなれば、居場所を失い、ゼーシェリオンについていくと決めた人の集まり。


 そんな王族達が、こんな大掛かりな事を自主的にやっているというのに、感心するだろう。


 玉座破壊計画でなければ。


「そうは言っても、こんなにあれば悪用されるだけであって」


「それは……そう、かもしれねぇな」


 この空席の玉座があったからこそ、かつて、平和なロスト王国を我が物にしようという人物が出てきたのだろう。


 欲を否定するつもりはないが、ここは、平和を願った人々の集まり。そんな過ちを二度と繰り返してはならない。


 ――玉座は破壊した方が良いんだろうか。まあ、元々はあいつらが必要だっつってたから作ったんだが、座り心地が良いって、エレが気に入ってんだよな……エレが? ……そうだ!


 玉座を破壊せずとも、王族達全員納得させる方法。過ちを繰り返さない方法。


 それを思いついた。


 ――こんなもん、この国だからこそ通用する事だが、それで良いんだ。


「なら、その椅子エレ専用にすれば良いだろ? エレの許可がねぇやつが座れば重罪。即刻牢屋にぶち込みますとかって脅ししとけば、下手に手を出すやつはいねぇだろ」


「それで通用するのか? 」


「当然だろ。ここはロストなんだ。俺がエレとフォルに協力してもらいながら築いた国。俺の夢の第一歩。だから、通用するんだ。あいつは、この国の飾りの王が頭を下げる存在だと、この国は知っているから」


 ロスト王国には、ある伝承が残されている。それは、ゼーシェリオンが残したもの。


 ジェルドという種族がいた。ジェルドの王が、この国を築いた。ジェルドには、一人の姫がいる。その姫は、ジェルドの王達を従える。その姫の名は、エンジェリルナレーゼ。


 国民であれば誰でも知る話だ。


「俺がエレにこの玉座を与えた。元々飾りもんだから、座り心地が良く豪華な椅子を愛しい姫に与えたとしか思わねぇんだ。ここの国民は」


「本当に何から何まで不思議な国だ」


「だろ。ここでは、他の国の常識なんて通用しねぇよ」


「そうですわ。この国は、たった一人の想いに賛同した人の集まりですから。その想いに常識なんてありませんわ」


「ああ。だから、これを国中に知らせれば、玉座破壊計画なんていたねぇだろ? 」


 ゼーシェリオンの案に、全員納得した。


「あと、ルナ、お前の力を貸して欲しい。月夜が来てくれるのが一番なんだが、管理者の仕事を手伝ってるから、邪魔するわけにはいかねぇんだ」


「良いですわ。王のためであれば、いくらでも力を貸しますわ」


 ルーヴェレナは、ゼーシェリオンの頼みに快く引き受けてくれる。


 ――そういえば、ルナだけはどれだけ調べても、何も出てこなかったんだよな。ルナのあれは、明らかに、聖月に関係ねぇ。だが……考えても仕方ねぇか。本人も言おうとしねぇし、こっちから聞く必要もねぇからな。


「ルナ、暴走だけはするなよ」


「了承しかねますわ。こっちだって、したくてしてるわけではありませんの。なってしまうものは、止めようがありませんわ」


「だから連れてきたくねぇんだ」


 ルーヴェレナには、暴走癖がある。だが、そのリスクを冒してでも連れて行きたい戦力だ。


「ところで、どこへ行くのですか? 」


「トヴレンゼオ……原初の樹の場所だ。あの辺は危険だからな。ルナ、お前の力が欲しい」


「原初の樹といえば、その周辺で魔物が出ているという話を聞きますわ」


「そっちも対処しつつか……エルグにぃ、転移魔法」


「フォルから甘やかすなとメッセージが届いている」


 ゼーシェリオンが、こうする事を予想していたのだろう。


「……自分で使えば良いんだろ」


 ゼーシェリオンは、嫌々転移魔法を使った。


      **********


 原初の樹のある場所に直接転移魔法ではいけない。ゼーシェリオンが転移魔法で転移したのは、原初の樹へと続く道の手前。


 辺りは、氷しかない。


「ここは何度なんだ? 」


「確か、マイナス百度くらい。俺らは、これが普通だから、ちょうど良いが、エルグにぃは寒い? 」


「寒くない。しかし、これは……ゼロ、時々この場所を貸してもらえないか? ギュゼルとして、こういう場にもならすべき、だから」


 今はできない話だ。ギュゼルのほとんどは行方不明なのだから。


 ルーツエングのその言葉を聞き、ゼーシェリオンは、笑顔で頷いた。


「ああ……ん? えっ? ここ、特別寒い場所なんだが? ここで何かない限り、この気温はねぇと思うが? 」


 ロスト王国の国土は特別寒い場所だ。ここ以上に寒い場所など、自然界では存在しない。


「何かあってからでは遅いだろう。いつ何があっても良いように日頃から慣れておく必要がある。それが、俺達の考えだ」


「それであの過酷訓練か。そこまで必要ねぇだろ」


「必要とか関係ありませんわ。神獣というものは、そういうものですわ」


「なんでルナがそんな事知ってんだ? 」


 ルーヴェレナが、神獣について知っているというのに疑問を覚える。


 ルーヴェレナが神獣に関係あるという事だろうか。そんな事を考える。


「……昔聞いただけですわ。それに、神獣の知り合いなど、珍しくもないでしょう? 」


「それはそうだが。まあ良いか。言いたくなった時、いくらでも話を聞いてやる。昔の婚約者の愚痴でもなんでも」


「それは、嬉しいですわね。ですが、そういうふうに女性を扱うと、勘違いしますわよ」


「なにが? 」


 ゼーシェリオンは、意味が分からず、首を傾げた。


「……天然ですわね」


「だから、何の事だよ」


「なんでもないですわ。それより、あれは」


 目の前が、闇色の霧で覆われている。原初の樹トヴレンゼオは、この先で間違いない。これは、原初の樹トヴレンゼオの作る霧だろう。


「どうするのです? 」


「このまま進む。それ以外ねぇだろ」


「原初の樹の魔力。機嫌が悪いのか? 」


 原初の樹は、膨大な魔力を秘めている。原初の樹の機嫌一つで、周囲の環境が変わる。


 機嫌が良ければ、安全。ほとんどの原初の樹がそうだが、トヴレンゼオは違う。


 これは


「相当機嫌が良いな。何か良い事でもあったのか? ここまで機嫌が良くなるって」


 何かとんでもなく良い事があったのだろう。これは、そういう時の霧だ。


「これで機嫌が良いのか? 」


「ああ。トヴレンゼオは、機嫌が良いほど、周囲の環境が荒れるんだ。闇の霧。これは、今までにないほどの喜びでもあったんじゃねぇのか? トヴレンゼオは、ゼムを気に入ってるから、ここまでなるとすれば、ゼム絡みだな」


 ゼーシェリオンは、トヴレンゼオの好みから、ゼムレーグが何かしたのだろうとまで、予想した。


「危険なのは変わりねぇからな。防御魔法で身を守ってねぇと、霧の影響を受けるだろ」


「分かった」


 ゼーシェリオン達は、防御魔法を使い、霧の中へ入った。

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