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9話 宝剣ミディリシェル


 最奥へ辿り着いたエンジェリアは、ゼムレーグとイールグと、何があったのか報告しあった。


「ふみゅぅ。おかえりなの。エレの守り手」


「ああ、そうだった。昔は、がエレの守り手として、側で守ってたんだ」


「何を変なところで黄昏てるの? そんなの当たり前だよ。ゼムはゼロの自慢のおにぃちゃんなんだから。ゼロがいつもうるさいくらい自慢してたんだから」


 エンジェリアは、そう言って、ゼムレーグに抱きつこうとした。だが、ゼムレーグが、避けた。


「ふぇ⁉︎ 」


「そろそろ、エレの婚約者に怒られそう。ゼロにも」


「……そんな事ないと思うけど、エレが知らないだけかもしれないから何も言わないの。それより、宝剣を探さないと。最後の最後で宝探しって、みんな面白い事考えるよね」


 エンジェリアは、そう言って、無邪気に笑う。


「そうか。この笑顔を守りたかったのか」


「そうだよ。愛姫は、何もない世界ですらこうして無邪気に笑う。この笑顔を守りたい。それ以外にも、あるにはあるけど。それでも、その単純なものが、一番の理由」


 エンジェリアは、一人で一生懸命宝探しをしている。ゼムレーグとイールグが手伝いに来ない。


「……しゃぁー! エレ一人でやらせるなんてひどいの! いじわるなの! 」


「ごめん。手伝うよ」


「手伝うんじゃなくて、エレの代わりに」


「エレもやって。あまり甘やかしてるとオレが怒られる」


「ゼムが怒られるのは、エレ望んでないの。仕方ないからやるの」


 エンジェリアは、仕方なく、宝探しを続けた。


「みゅ? この壁、文字な気がする……ぷみゅぷみゅ。むじゅかちい。やってみるの」


 そこに書かれていたのは、エンジェリアが使う魔法に必要な呪言。


「星の音鳴り響く、世界への入り口を開け」


 エンジェリアがそう言うと、壁が動き出した。


「ふみゅ。古典的なの。とっても、ぷみゅって感じがするの」


 壁の奥は暗くて良く見えない。だが、それはエンジェリアだからだ。ゼムレーグであれば、この暗い場所も、明るい場所と同等に見えているだろう。


「ゼム、宝剣は? 」


「ある。明かりでもあれば良いけど」


「ゼムって光魔法にがて? 」


「苦手」


「任せろ」


 イールグが、光魔法を使った。光魔法の明かりで、周囲が見えるようになる。


 エンジェリアの宝剣は、丁寧に植物の台に置かれている。その両隣に、本とペンダントが置いてある。


「これ、オレが昔使っていた、守護のペンダント」


「ふみゅ。こっちは、昔の魔法の書物なの。魔法以外にも、いろいろと載ってるらしいの」


「これはルーにじゃない? 」


「そうだと思うの」


 エンジェリアは、宝剣を手に取った。


「りゅりゅ」


「はいでちゅ。魔力経路の確認完了でちゅ。問題ないでちゅ。今すぐにでもできまちゅ」


「お願い」


 りゅりゅが、宝剣と同化する。


「問題ないでちゅ」


「戻って良いよ。ありがと、確認してくれて」


「お安いご用でちゅ。でも、ちゅかれたので寝てるでちゅ」


 りゅりゅがそう言って、姿を消した。


「エレ? 」


「むにゅぅ? エレとゼロの眷属は、エレとゼロに似てるの。りゅりゅもちょっぴりゼロに似てる部分があるの」


「そうなんだ。オレも一応チェックしておこうかな。こんなに長い年月が経ってるんだから、不具合があるかもしれない」


「どうやって? 」


 ゼムレーグの持つ守護のペンダントは、所有者を守るもの。ゼムレーグの持っているものであれば、呪いと呼ばれるような魔法から。


 それが機能しているか確認するためには、それをやらないといけないだろう。


「それ系の魔法なら少し使える。自分にかけるのはちょっと抵抗あるけど」


「ならこれを使え」


 ゼムレーグそっくりの人形。イールグが魔法で創った。


「すごい出来。これをつけて試してみよう」


「……ふみゅ」


 エンジェリアは、何か言いたげに、ゼムレーグを見ている。


 ゼムレーグは、人形に守護のペンダントをつけている。


 ――ゼム、自分じゃなければ良いんだ。ゼムそっくりの人形でも……ぷみゅ。


「どうしたんだ? 」


「別になんでもないの。エレは、宝剣に魔力与えてみるの。自分の魔力に反応するかは重要なの」


 エンジェリアは、宝剣に魔力を注ぐ。十分すぎるほど、魔力が行き渡っている。


 ゼムレーグの方を見ると、魔法をかけている。守護のペンダントは、機能しているようで、魔法は効いていない。


 エンジェリアは、宝剣を収納魔法にしまった。


「ぷみゅ。この後は、アスティディアに行くから、危険な事はないと思うけど、遺産探しがちょっと危険かも。ルー、本読んでみて? 何か使えそうなの覚えておけば、いざという時に役立つと思うの」


「そうだな」


「あれ? この本って」


 ゼムレーグが、何か言いかけていたが、イールグは、本を開いた。


「……読める? 」


「当然だ。この程度の文字に苦戦しているようでは、古代の魔法など学べない」


「さすがルーにぃなの。ルーにぃが本読んでる間に、ゼムの魔法見てるの」


「オレの? どんな魔法が見たい? 」


「なんでも良いよ。きれいな魔法なら嬉しいけど」


「分かった。なら、これかな」


 氷の花が降る。光が反射し、氷の花が光っているように見える。


「きれい。ゼムの魔法って、とっても繊細なの。きれいなの」


「ありがとう。オレ的には、ゼロの方が綺麗だと思うけど。エレがそう言ってくれるなら、綺麗なんだろうね」


「そうなの! きれいなの! ゼムの魔法は、みんなにきれいな景色を見せる事だってできるの! 人を傷つけるだけじゃないの! 」


「……ありがとう。けど、もう大丈夫だよ。オレはこの力で、エレを守るから。だから、今までの分まで、オレの事頼って良いよ」


 ゼムレーグが気にしていれば、少しでもそれをなくすためにと言ったが、杞憂だった。


 エンジェリアは、ゼムレーグに笑顔を見せた。


「ぷみゅ。いっぱい頼るの。エレは、お勉強苦手で、分からない事もいっぱいだから、それも頼るの」


「うん。任せて」


「……アスティディアで、エレが迷子になるかもしれないから、ゼムがちゃんと面倒見るんだよ? エレ、迷子が得意らしいから。ゼロがそう言うだけなんだけど、一応言っておくの」


 いまだに自分が方向音痴だと認めたくはない。エンジェリアは、ゼーシェリオンを言い訳に使った。


「ゼロも言ってるけど、迷子になるって分かってるなら、自分でならないようにしてよ」


「ゼム、知らないものってとっても気になるの。きれいな蝶々とかとっても気になるの。だから、ついていきたい。そう思うの。見てみたい。そう思うの。それがエレという生き物なの。その好奇心を消す事はできないの。賢いゼムなら、その続きは分かってくれると思うの」


「それで毎度危険な場所へ足を突っ込まれるのを守るこっちの身になって」


 エンジェリアが、ぷぅっと頬を膨らませて不貞腐れた。


「読み終わった。いくつか、今すぐにでも使えそうなものがあった」


「ふぇ⁉︎ あれをこの短時間で理解したの? 全部読んだの? ふぇ⁉︎ 」


「? 普通だろう? フォルと暗記勝負した時は、この量をこの半分の時間で全部覚えてたぞ? 流石に、慣れない文字で多少苦戦したな」


 ――黄金蝶の普通は信じちゃだめなの。


「魔法の無駄をなくす方法とか、かなり勉強になった。今覚えている魔法も、魔力をもっと減らしてできるかもしれない」


「ルーならできるだろうね。魔力との親和性が高い。記憶はなくても、昔の世界で、魔力と深く関わっていたのかも」


 ありえない話ではないだろう。転生した今も、その気質が高く残る。


 エンジェリアは、イールグにくっつき、匂いを嗅いだ。


「どう? 」


「匂いだけじゃ分かんないの。でも、エレの魔力に反応してる。ゼムのその憶測はあってるかも。でも、でも、転生前がどうであっても、ルーにぃはルーにぃなの」


「……エレ、そろそろ戻ろう」


「みゅ。戻るの」


 エンジェリア達は、イールグが使えそうな魔法の話をしながら洞窟を出た。

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