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7話 かっこいい


 エンジェリアが洞窟へ入ってすぐ。


「お二人も、中へお入りください。最奥へ辿り着ければ、あるものを渡します」


 イェリウィヴェにそう言われ。イールグとゼムレーグも、ゲートへ入った。


      **********


 イールグがゲートへ入ると、ゼムレーグがいない。別の場所へ転移したのだろう。


『きれい。ぷみゅ、がんばって進むの』


 通信機からエンジェリアの声が聞こえた。


『エレ、どこいる? 』


『きれいな洞窟』


「どうやら、全員違う場所へ転移したようだな」


 綺麗な洞窟というのは、イールグの方も同じだが、最奥へ行くまでは合流する事はないだろう。


 その事に直ぐに気づいた。


『ふみゅ。ルーにぃも一緒なの。エレ一番に辿り着けるようにがんばる』


 それに気づいてか、ただ単に先に行ったからという事か、エンジェリアがそう言う。その後、通信が途絶えた。


 通信が途絶えたとしても、エンジェリアは、ああ見えて意外としっかりしている。心配する必要はないだろう。

 ゼムレーグも、今まで使おうとしなかった魔法と向き合いつつある。


 イールグは、二人の心配はせず、洞窟の奥へ進んだ。


 ――ほう。これは中々良い趣味を持っている。彼女の趣味ではないようだが。


 天井から槍の雨が降っている。これに当たれば、大怪我では済まないだろう。


 イールグは、初めて会い、多少話しただけだが、イェリウィヴェの性格はある程度理解できた。


 この危険な仕掛けは、イェリウィヴェの性格ではない。他の誰かがこの仕掛けを考えたのだろう。


 ――まあ、この程度、オルベア様が教官を務めた時と比べれば、楽すぎるな。


 イールグは、槍を全て避けながら、奥へと進んだ。


『黄金蝶であれば、これは当然でしょう』


 どこからか声が聞こえた。エンジェリア達でも、イェリウィヴェでもない。その声の主が、この仕掛けを考えたのだろう。


「フッ、随分と良い趣味をお持ちなようだ。原初の樹アウィティリメナ」


 精霊の森に存在する原初の樹、アウィティリメナ。


 イールグは、イェリウィヴェと同じく、一度も会った事はないが、神獣として、原初の樹について学んでいる。その知識を活かし、名を言い当てた。


『良く、ご存知ですね。いくら知識があろうと、判断力があろうと、この世界しか知らぬ者。なのになぜ、かのお方は、こんな者と共にいるのです! アダクシは、絶対認めません! こんな者が、かのお方と共にいるなど! 』


「かのお方とは誰だ? 」


『かのお方はかのお方です! 我々の創造主、我々の敬愛すべき相手! それが、かのお方です! かのお方は、アンタのような者と一緒にいるべきじゃない! かのお方は、もっと、強く健気で高貴な者と一緒にいるべきです! あの、氷の弟殿下のような! あの、愛姫様のような! 』


 イールグには聞き覚えのない言葉。神獣として、黄金蝶として、知識を蓄えてきたが、その知識の中にはない言葉。


 ――氷の弟はゼロだとすれば、愛姫というのは、エレか。なら、かのお方というのは……何か隠してる事は昔から知っていたが、その隠し事は、想像以上に大きな事なのだろうな。

 話してくれるまでは、なにも聞かない。いつか、話してくれると信じて待とう。


 それは、近い未来だろう。そんな予感がしている。


「それで、ただ喋りに来たわけではないだろう。なにをすれば良い? 」


『そんなの、単純です。アダクシは、アンタを認めてない。だから、アンタが、かのお方と共にいる価値のある者か見極める。まずは、判断力は良いでしょう。知識は、もう少し試しましょう。ジェルドと呼ばれる種はご存知でしょう? 』


「終焉の種だろう」


『では、終焉の種の王と呼ばれる人物達が、たった一人大事にする人物は? 』


 ジェルドという種族に関しては情報が少ない。イールグは、その存在を知っている程度だ。王達の事もなにも知らない。


 だが、知らないで諦める性格ではない。知らないのであれば、今ある全ての知識を持ってして、それを導く。


 これに関しては、その必要もないが


「フッ、簡単な問題だ。貴様が答えを出しているではないか。愛姫と」


 アウィティリメナの発言。かのお方も氷の弟殿下も愛姫もジェルドに関連するものだろう。


 それに、ゼーシェリオンとフォルだけでない。ゼムレーグも、エンジェリアを守るために、嫌いな魔法を使っている。それが答えだ。


「そして、エレが愛姫というものだ」


『知識だけでなく、アダクシの言葉も一語一句逃さず聞いてましたか。その通りです。その様子では、氷の兄殿下についても気づいているようですね』


「ゼムだろう」


『正解です。ですが、まだ認めません。肝心なのは力。かの者と共にいるというのであれば、それ相応の力を示してもらわなくては』


 アウィティリメナがそう言うと、根が、巨大な魔物のような形となった。


『こちらは、原初の樹の根。浄化魔法など効きません』


「その前に問いたい。この根を破壊すればどうなる? 」


『どうにもなりません。根は、魔力の形。破壊したとしても、直ぐにまた復活します。これで、心置きなくやり合えるでしょう? 』


「そうだな」


 根が、イールグを踏もうと、足を動かした。


『そういう意味の力を示せと言っていたのではないのですが。この根の子は、数百キロあるんですが? 強化魔法無しになんなんですか? 』


 イールグは、避ける事なく、片手で足を受け止めた。


 それには、アウィティリメナも呆気に取られているようだ。


「この程度造作もない。ゼロの方がもっと重いものを持っているだろう。吸血種の特徴としても、あの重さを持てるのは尊敬する」


『素直に人を認められるのですね。アダクシの知る人の子とは違います。そこは、認めましょう。ですが、それでどうするのです? 受け止めただけでは、力を示したとは言えません』


「そうだな。だが」


 イールグは、風魔法を使い、根を吹き飛ばした。根が飛んだ場所に、雷魔法を使う。


 根が黒焦げになり、動かなくなった。


『正直、みくびっておりました。なぜ、そんな力をただの黄金蝶が持っているのです? 本家に生まれるような、特殊な子でもないというのに。これに答えれば、アダクシが、アンタを認めましょう。アンタの強さはなんですか? アンタの過去になにがあったんですか? 』


 イールグは、黄金蝶など出た事のない、本家からは縁遠い。


 神獣は、いくつかの血統者が力を持ち、そこに近しい程、力は強くなる。だが、イールグは、本家どころか、そのどれにも当てはまらない。


 そんな家系で黄金蝶が出ただけでも稀な事だ。その上、本家も一目置くほどの力を持っているとなれば、ありえない事なのだろう。


 だが、その本当の理由など、イールグ本人も知らない。ただ


「俺は昔、フォルに嫉妬していた。持って生まれ、なんの努力も無しにあれだけの事をしていると思っていたからだ。だが、フォルは、隠れて、俺達の倍以上の課題をこなし、それを誰にも悟られぬようにしてきた」


『そんなかのお方……彼に近づきたかったのですか? 』


「そうかもしれないな。俺は、勝手にライバル視し、追い抜こうとした。何度も勝負を挑んでは負けた」


『それだけであの強さは異常ですが、まあ良いでしょう。彼がアンタを友としてまではいかずとも、見るようになったきっかけも聞いてよろしいですか? 』


「初めは俺が勝負をふっかけるだけ。その時もだが、ずっと、関わるなというオーラがすごかった。だが、それが変わったのは、エレがきっかけだ。あの子が石を投げられてるのを見て、庇ったんだ。後先考えずに」


 イールグが、フォルと出会った当時、エンジェリアを庇えば、ほとんどの神獣を敵に回す行為だった。だが、それを知っていながら、イールグは止めに入った。今も、それを後悔してはいない。


「あの子は、一人で泣いていた。俺が止めて慰めていると、フォルがきて、何度も俺に礼を言った。そこから、少しずつ話すようになった。今では、こうして友と言える」


『そうですか。アダクシは、アンタを認めましょう。アンタはまっすぐで、かのお方の友に相応しいでしょう。愛姫様の兄代わりにも。ご存知でしょうか? 愛姫様は、アンタを兄のように慕っていると』


「知っている。だから、俺はあの子の前で格好悪いところは見せたくはなかったんだが……」


『かっこいいではないでしょうか? 守ったのでしょう? リミェラという黄金蝶の事を。アンタは、彼女を手にかける事なんて造作もなかったはずです。それをしなかったのは、魔物化しようと、彼女が何かに操られていると信じ、そのなにかから彼女を引き出そうとしたのは、かっこいいと思います』


 そう言って、アウィティリメナがその姿を見せた。


『アンタは、十分かっこいいです。それを、愛姫様は気づいておりますよ。あの方は、あれでもそういうのに聡い子です』


「そうか」


『行きなさい。最奥へ。この穴が最奥への道です』


「感謝する。それと、今度、ゆっくり話そう」


『ええ。それは嬉しいです。アダクシ、アンタを気に入りましたから。イールグ』


 アウィティリメナが、そう言って姿を消した。


 イールグは、最奥へと続く穴の中に入った。

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