天界に存在する原初の樹イェリウィヴェ。
イェリウィヴェの存在する場所は、湖に浮かぶ小さな島。
「久しぶり、イェリウィヴェ」
『ええ。久しゅうございます。エンジェリア姫。それに、ゼムレーグ様も』
「イェリウィヴェ、天界に結界を張って欲しいの。早急に。魔法から守るように」
邪魔変魔法は、まだ天界にはきていない。だが、いつ天界が、邪魔変魔法の影響を受けるか分からない。そうなる前に対策をしておく必要がある。
エンジェリアは、イェリウィヴェに頼み、天界全体を覆う結界を張ってもらった。
『結界を張りました』
「ありがと。それと、宝剣のありかって知ってる? いつの間にか失くなっちゃってたの」
『それでしたら、保管しております。根の洞窟の中に。ですが、タダで渡すわけにはまいりません。根の元へ、ご自分の足で取りに行ってください』
原初の樹の根は、特殊な空間の中にある。そこは洞窟になっており、原初の樹は、その洞窟のゲートを作る事ができる。
「ぷみゅ。ゲートの中に行くの、やだけどがんばるの」
エンジェリアは、恐る恐るゲートの中に入った。
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洞窟の中が明るい。上から光が照らしている。
地面は、緑で溢れている。
「きれい。ぷみゅ、がんばって進むの」
『エレ、どこいる? 』
小型の通信魔法具から、ゼムレーグの声が聞こえる。ゼムレーグも、ゲートの中に入ったのだろう。
「きれいな洞窟」
『どうやら、全員違う場所へ転移したようだな』
「ふみゅ。ルーにぃも一緒なの。エレ一番に辿り着けるようにがんばる」
エンジェリアがそう言ったのを最後に、通信が突然途絶えた。
「みゅ? ゼム? ルーにぃ? ……とりあえず進むの」
エンジェリアは、あまり気にせず、洞窟の中を進む。
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「ふみゅ。なんだかずっとおんなじところを通ってるような……気のせいじゃなさそう」
洞窟で一人。迷子にならないよう、印をつけながら歩いているが、つけた印を何度も見ている。
エンジェリアは、十周したところで、ずっと同じ場所を回っているという事に気づいた。
「……ふみゅ。こういう時は……どうするんだろう……ゼロならきっと、魔法の影響かもって調べる気がする。フォルなら……魔法なんて知らないもんーってする気がする」
魔法の影響だとすれば、解呪魔法を使えば良い。だが、原初の樹相手にそんな方法は通用しない。
「……ぷみゅ……だめだったの。なら、壁をさわさわするの。大抵は壁になにかあるから」
エンジェリアの中では、何もない時は壁に仕掛けがある。エンジェリアは、壁を触りまくった。
「ぷみゃ⁉︎ こ、こんな典型的なものが」
壁を触っていると、偶然ボタンに触れた。そのボタンを押すと、巨大な岩がゴロゴロと転がってくる。
「壊れるのー」
エンジェリアは、氷魔法を使い、氷柱を創り、巨大な岩にぶつけた。
巨大な岩が砕け、その破片がエンジェリアの方にもくる。
「ぷみゃ⁉︎ 」
エンジェリアの目の前に、氷の壁ができた。原初の樹に向かう途中、ゼムレーグがエンジェリアに施した加護はこれだったのだろう。
「ゼムありがとなの」
巨大な岩がなくなると、新しい道が見えた。エンジェリアは、その道へ進んだ。
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道を進んだ先にあったのは、見るからに矢が飛んできそうな仕掛け。そこを通る以外に道がない。
「ふみゅふみゅ。避けるのはエレにはむずかそう。剣で矢を叩き斬るなんて荒技もエレにはむずかしい。なら、防御魔法で行くしかないの……ふみゅ」
エンジェリアは、防御魔法と結界魔法を自分にかけ、矢の飛び交う道を通った。
防御魔法の上に結界魔法をかけているおかげで、強度はかなり高く、矢が数百本当たる程度では壊れない。
――自分にかけるんじゃなかったら、防御魔法だけで良いのに。
エンジェリアは、他者に防御魔法をかける分には、この程度は余裕で防ぐ事ができるが、自分にかけるとなれば、かなり効果が低くなってしまう。
今も、結界魔法を外にかけていなければ、矢を防ぐ事などできていないだろう。
――ぷみゅ。エレにかかればこんなものなの。
「りゅりゅ」
エンジェリアが呼ぶと、碧色の小龍が現れた。
「りゅりゅ、暇なの。頭の上乗ってて良いから一緒にいて」
「はいでちゅ。ひめちゃまのお願いなら、聞くでちゅ」
エンジェリアは、りゅりゅをと会話しながら、洞窟の奥へと進んだ。
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行き止まりに辿り着くと、木の根が人の姿へと変わる。
「ぷみゅ。さっきぶりなの」
「そうですね」
その姿は、イェリウィヴェの人型の姿。
「エレになにを見せて欲しいの? ……エレはなにを見せれば良いの? 」
「フフ、話が早くて助かります。宝剣を手にするという事は、皆に、兵器である事が知られてしまいます。そうなれば、当然、悪人から狙われる事でしょう。そうでなくとも、貴方様は危険が多すぎます。多少は、身を守る術がなくては。続きは、分かりますよね? 」
エンジェリアは、こくりと頷いた。
「でも、なにで試すの? 」
「こちらの根の子達で。安心してください。この子達は、皆、消滅する事はございません」
「みゅ」
根が、中型の魔物のような姿へ変化する。魔物ではないため、浄化魔法で浄化するという手段は使えないだろう。
「ぷみゅ。エレ普段は、後ろで守られてるだけだけど」
エンジェリアは、収納魔法から、片手剣を取り出した。エンジェリアの特注品で、重さがない。非力なエンジェリアでも持てる。
「一応、使えるの」
片手剣に、魔力を注ぐ。
舞うように片手剣を振るう。エンジェリアが剣に与えている魔力により、刃に当たると花が咲いた。
根が全て花へと変わるまでは、そう時間はかからなかった。エンジェリアの持つ片手剣は、全ての根を花へと変えると砕け散った。
「……ぷみゅ」
「使い捨て、ですか」
「これでも、破壊兵器って言われる存在なの。人間の国の技術で作る軽い剣じゃ、これが限界。本当は、エレもこんな使い捨てばかりしたくないんだけど。お金もかかるから」
「申し訳ありません。試すためとはいえ。人間の国の剣で、しかも特注。かなりのお値段ではないでしょうか? それを、壊してしまい」
そう言って、イェリウィヴェが頭を下げた。
「気にしなくて良いの。お値段は……ちょっとだけ高かったけど。それでも、気にしなくて良いの。それで宝剣貰えるなら、それで良いの。ものは、どれだけ大切にしていてもいつかは壊れてしまうから」
「そうですね。ですが、壊れないものもあるでしょう。目に見えないものは特に、壊れづらいと思います。姫、そちらにある穴の中へ入ってください。その中に、姫が望むものがございます」
「ふみゅ。ありがと」
エンジェリアは、そう言って、イェリウィヴェの背後にある穴を覗いた。地面は見えない。かなり深い穴のようだ。
「ふぇ? これ中入るの? 」
「浮遊魔法でも、翼でもご自由にお使いください」
「ふぇ。その前にエレ……というか、エレは、天界から落とされた時に翼を失って」
「あるでしょう。現在で言う、龍族に天族、そして妖精の翼が」
「あるけど……高いの怖い」
「ここも十分高いですよ? 」
天界はその名の通り、天高くに存在している。下を見れば、雲が見える高さだ。
「みゅぅ。がんばるの」
エンジェリアは、龍族の翼を出し、穴の中へ入った。
「ぴみゃぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」
穴の中へ入ると、エンジェリアは、泣きながら悲鳴をあげた。
龍族の翼を維持できず、そのまま落下する。
「ぴみゃぁぁぁぁぁぁ‼︎」
「エレ! 大丈夫だから、信じて! 」
下からゼムレーグの声が聞こえてきた。エンジェリアの悲鳴はぴたりと消える。エンジェリアは、瞼を閉じた。
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「もう大丈夫」
ゼムレーグのその声を聞くと、エンジェリアは、瞼を開け、辺りを見回した。
ゼムレーグだけではない。イールグもいる。どうやら、エンジェリアが最後だったようだ。