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6話 エレの洞窟こぉりゃく


 天界に存在する原初の樹イェリウィヴェ。


 イェリウィヴェの存在する場所は、湖に浮かぶ小さな島。


「久しぶり、イェリウィヴェ」


『ええ。久しゅうございます。エンジェリア姫。それに、ゼムレーグ様も』


「イェリウィヴェ、天界に結界を張って欲しいの。早急に。魔法から守るように」


 邪魔変魔法は、まだ天界にはきていない。だが、いつ天界が、邪魔変魔法の影響を受けるか分からない。そうなる前に対策をしておく必要がある。


 エンジェリアは、イェリウィヴェに頼み、天界全体を覆う結界を張ってもらった。


『結界を張りました』


「ありがと。それと、宝剣のありかって知ってる? いつの間にか失くなっちゃってたの」


『それでしたら、保管しております。根の洞窟の中に。ですが、タダで渡すわけにはまいりません。根の元へ、ご自分の足で取りに行ってください』


 原初の樹の根は、特殊な空間の中にある。そこは洞窟になっており、原初の樹は、その洞窟のゲートを作る事ができる。


「ぷみゅ。ゲートの中に行くの、やだけどがんばるの」


 エンジェリアは、恐る恐るゲートの中に入った。


      **********


 洞窟の中が明るい。上から光が照らしている。


 地面は、緑で溢れている。


「きれい。ぷみゅ、がんばって進むの」


『エレ、どこいる? 』


 小型の通信魔法具から、ゼムレーグの声が聞こえる。ゼムレーグも、ゲートの中に入ったのだろう。


「きれいな洞窟」


『どうやら、全員違う場所へ転移したようだな』


「ふみゅ。ルーにぃも一緒なの。エレ一番に辿り着けるようにがんばる」


 エンジェリアがそう言ったのを最後に、通信が突然途絶えた。


「みゅ? ゼム? ルーにぃ? ……とりあえず進むの」


 エンジェリアは、あまり気にせず、洞窟の中を進む。


      **********


「ふみゅ。なんだかずっとおんなじところを通ってるような……気のせいじゃなさそう」


 洞窟で一人。迷子にならないよう、印をつけながら歩いているが、つけた印を何度も見ている。


 エンジェリアは、十周したところで、ずっと同じ場所を回っているという事に気づいた。


「……ふみゅ。こういう時は……どうするんだろう……ゼロならきっと、魔法の影響かもって調べる気がする。フォルなら……魔法なんて知らないもんーってする気がする」


 魔法の影響だとすれば、解呪魔法を使えば良い。だが、原初の樹相手にそんな方法は通用しない。


「……ぷみゅ……だめだったの。なら、壁をさわさわするの。大抵は壁になにかあるから」


 エンジェリアの中では、何もない時は壁に仕掛けがある。エンジェリアは、壁を触りまくった。


「ぷみゃ⁉︎ こ、こんな典型的なものが」


 壁を触っていると、偶然ボタンに触れた。そのボタンを押すと、巨大な岩がゴロゴロと転がってくる。


「壊れるのー」


 エンジェリアは、氷魔法を使い、氷柱を創り、巨大な岩にぶつけた。


 巨大な岩が砕け、その破片がエンジェリアの方にもくる。


「ぷみゃ⁉︎ 」


 エンジェリアの目の前に、氷の壁ができた。原初の樹に向かう途中、ゼムレーグがエンジェリアに施した加護はこれだったのだろう。


「ゼムありがとなの」


 巨大な岩がなくなると、新しい道が見えた。エンジェリアは、その道へ進んだ。


      **********


 道を進んだ先にあったのは、見るからに矢が飛んできそうな仕掛け。そこを通る以外に道がない。


「ふみゅふみゅ。避けるのはエレにはむずかそう。剣で矢を叩き斬るなんて荒技もエレにはむずかしい。なら、防御魔法で行くしかないの……ふみゅ」


 エンジェリアは、防御魔法と結界魔法を自分にかけ、矢の飛び交う道を通った。


 防御魔法の上に結界魔法をかけているおかげで、強度はかなり高く、矢が数百本当たる程度では壊れない。


 ――自分にかけるんじゃなかったら、防御魔法だけで良いのに。


 エンジェリアは、他者に防御魔法をかける分には、この程度は余裕で防ぐ事ができるが、自分にかけるとなれば、かなり効果が低くなってしまう。


 今も、結界魔法を外にかけていなければ、矢を防ぐ事などできていないだろう。


 ――ぷみゅ。エレにかかればこんなものなの。


「りゅりゅ」


 エンジェリアが呼ぶと、碧色の小龍が現れた。


「りゅりゅ、暇なの。頭の上乗ってて良いから一緒にいて」


「はいでちゅ。ひめちゃまのお願いなら、聞くでちゅ」


 エンジェリアは、りゅりゅをと会話しながら、洞窟の奥へと進んだ。


      **********


 行き止まりに辿り着くと、木の根が人の姿へと変わる。


「ぷみゅ。さっきぶりなの」


「そうですね」


 その姿は、イェリウィヴェの人型の姿。


「エレになにを見せて欲しいの? ……エレはなにを見せれば良いの? 」


「フフ、話が早くて助かります。宝剣を手にするという事は、皆に、兵器である事が知られてしまいます。そうなれば、当然、悪人から狙われる事でしょう。そうでなくとも、貴方様は危険が多すぎます。多少は、身を守る術がなくては。続きは、分かりますよね? 」


 エンジェリアは、こくりと頷いた。


「でも、なにで試すの? 」


「こちらの根の子達で。安心してください。この子達は、皆、消滅する事はございません」


「みゅ」


 根が、中型の魔物のような姿へ変化する。魔物ではないため、浄化魔法で浄化するという手段は使えないだろう。


「ぷみゅ。エレ普段は、後ろで守られてるだけだけど」


 エンジェリアは、収納魔法から、片手剣を取り出した。エンジェリアの特注品で、重さがない。非力なエンジェリアでも持てる。


「一応、使えるの」


 片手剣に、魔力を注ぐ。


 舞うように片手剣を振るう。エンジェリアが剣に与えている魔力により、刃に当たると花が咲いた。


 根が全て花へと変わるまでは、そう時間はかからなかった。エンジェリアの持つ片手剣は、全ての根を花へと変えると砕け散った。


「……ぷみゅ」


「使い捨て、ですか」


「これでも、破壊兵器って言われる存在なの。人間の国の技術で作る軽い剣じゃ、これが限界。本当は、エレもこんな使い捨てばかりしたくないんだけど。お金もかかるから」


「申し訳ありません。試すためとはいえ。人間の国の剣で、しかも特注。かなりのお値段ではないでしょうか? それを、壊してしまい」


 そう言って、イェリウィヴェが頭を下げた。


「気にしなくて良いの。お値段は……ちょっとだけ高かったけど。それでも、気にしなくて良いの。それで宝剣貰えるなら、それで良いの。ものは、どれだけ大切にしていてもいつかは壊れてしまうから」


「そうですね。ですが、壊れないものもあるでしょう。目に見えないものは特に、壊れづらいと思います。姫、そちらにある穴の中へ入ってください。その中に、姫が望むものがございます」


「ふみゅ。ありがと」


 エンジェリアは、そう言って、イェリウィヴェの背後にある穴を覗いた。地面は見えない。かなり深い穴のようだ。


「ふぇ? これ中入るの? 」


「浮遊魔法でも、翼でもご自由にお使いください」


「ふぇ。その前にエレ……というか、エレは、天界から落とされた時に翼を失って」


「あるでしょう。現在で言う、龍族に天族、そして妖精の翼が」


「あるけど……高いの怖い」


「ここも十分高いですよ? 」


 天界はその名の通り、天高くに存在している。下を見れば、雲が見える高さだ。


「みゅぅ。がんばるの」


 エンジェリアは、龍族の翼を出し、穴の中へ入った。


「ぴみゃぁぁぁぁぁぁぁ‼︎」


 穴の中へ入ると、エンジェリアは、泣きながら悲鳴をあげた。


 龍族の翼を維持できず、そのまま落下する。


「ぴみゃぁぁぁぁぁぁ‼︎」


「エレ! 大丈夫だから、信じて! 」


 下からゼムレーグの声が聞こえてきた。エンジェリアの悲鳴はぴたりと消える。エンジェリアは、瞼を閉じた。


      **********


「もう大丈夫」


 ゼムレーグのその声を聞くと、エンジェリアは、瞼を開け、辺りを見回した。


 ゼムレーグだけではない。イールグもいる。どうやら、エンジェリアが最後だったようだ。

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