ゼーシェリオン達が買い出しへ出掛けた翌日、帰ってこない。
二日目、帰ってこない。
三日目、帰ってこない。
「おかしいの! ただの買い出しでこんなに時間かかるなんておかしいの! 絶対エレに内緒で遊んでるの! 」
「エレ、それはないと思うよ。ギューにぃ様達と連絡取ってて、気にしてなかったけど、流石に遅すぎる」
「なんで連絡取ってたの? 」
「調べ物。リミェラに関する資料が見つかればと。でも、中々見つからなくて」
呪いの聖女となった原因について、今回の処分の命について、何かあるのか調べていたのだろう。
呪いの聖女となった原因に関しては、エンジェリアにも心当たりがある。それを話したくはないが、恐らく、エンジェリアとゼーシェリオンが原因だろうと思っている。
「エレ? どうかしたの? 」
「なんでもないの。それより、探しいくの。エレ勝手に行くから」
「僕も行くよ。ルーは、僕と位置情報を確認し合えるようにしてるんだ。何かあった時のために」
「ぷにゅ。それで行くの? 」
「うん。多少のずれがあるかもしれないけど」
そう言ってフォルが転移魔法を使った。
**********
目の前には巨大な扉がある。恐らく、ゼーシェリオン達はこの中にいるのだろう。
エンジェリアは、扉を開けた。
「ふぇ……ここって。フォル? いないの」
フォルがそんな事をするとは考えられないが、転移魔法を使った時に逸れたのだろう。
フォルがいない中、一人で扉の中へ入った。
「……ぷみゅ」
自然の中。僅かに残る住居跡。
すでに人は住んでいない世界。
エンジェリアは、重い足を前に進める。
――ここ……やっぱり、リミェラねぇは……
エンジェリアが歩いていると、小さな魔物がエンジェリアに飛びついた。
危険な様子はない。遊びたいだけなのだろう。
エンジェリアは、小さな魔物三匹と遊ぶ。
「ぷみゅ。魔物さんでも可愛いの」
魔物は、まるで知能でもあるかのようだった。エンジェリアが可愛いというと、ぴょんぴょんと跳ねた。
「……ふにゅ? 一足す一は? 」
どれだけ知能があるか試そうと、簡単な問題を出してみる。すると、魔物達は、一匹離れ、二匹でくっついた。まるで、二と言っているように。
「……すごいの。もしかしたらエレよりも頭良いかもなの」
エンジェリアが、思わず口にした一言。その一言に反応したのか、魔物の一匹が、ぴょんぴょんと跳ねた。
「……なんだかゼロみたい……ゼロ……フォル……一人で寂しい」
エンジェリアが、そう言って俯くと、魔物達は、エンジェリアを慰めるかのように、すりすりと擦り寄った。
これほど知能を持ち、喋る事のできない魔物は珍しい。
「いた。良かった。怪我なくて」
「フォル」
エンジェリアを探していたのだろう。フォルが、エンジェリアを背後から抱きしめる。顔は見えないが、それだけで安心した。
「ごめん。なぜか、僕の転移位置だけずれていたんだ」
「……手、怪我してるの」
抱きしめられている手を見てみると、擦り傷が多い。中には、何かに斬られたような傷がある。
「ああ。君を早く見つけないとって、焦っていたから」
「癒し魔法使いの」
「このくらい平気。気にしないで。それより、この魔物って」
「遊んで欲しかったみたい。この子とかゼロに似て生意気なんだよ。エレがつい、エレより頭良いかもって言ったら、そうって言うみたいにぴょんぴょん跳ねたの。ゼロに似てると思わない? 」
「ゼロに似てる? ……ゼロ、聞こえてるなら、返事して。って喋る事はできないのか。なら、君がゼロなら、この手の上に来て」
フォルがそう言うと、魔物の一匹。エンジェリアがゼーシェリオンみたいと言っていた魔物が、フォルの手の上に乗った。
「エレ、この子回収」
「みゅ」
エンジェリアは、ゼーシェリオンらしき魔物を頭の上に乗せた。
「……ルー」
フィルが呼ぶと、魔物の一匹が、フォルの手の上に乗る。その魔物がイールグなのだろう。
「エレ」
「ぷみゅ」
エンジェリアは、イールグらしき魔物を頭の上に乗せた。
「残りは……この状態で意識を保っていられるんだ。リーミュナ達には無理だろう。できるとすれば、にぃ様。違う? 」
最後の一匹が、フォルの手の上に乗る。
エンジェリアの側へ来ていた魔物は、この状態でも、意識を留めていた、ゼーシェリオン、ルーツエング、イールグの三人だったようだ。
「エレ、帰るよ」
「でも」
「大丈夫。最終的には全員助ける。でも、今の君を呪いの聖女に会わせる事はできない。理由は、言わなくても分かってるんじゃないかな? 」
「……」
エンジェリアは、こくりと頷いた。ゼーシェリオンらしき魔物が、エンジェリアの頭でぴょんぴょん跳ねる。慰めようとしているのだろう。
エンジェリアは、フォルの手を握った。
「……行こうか」
「……みゅ」
フォルが、転移魔法を使い、エクリシェへ帰った。
**********
エクリシェ中層のフォルの部屋。エンジェリアは、ベッドの上で、膝を抱えている。
「……ねむねむ」
「少し寝れば? 三日間全然寝れなかったんじゃないの? 」
「ふみゅ。一人でねむねむきらい。また怖い夢見るの」
「側にいる。だから寝て」
「……ふみゅ」
フォルは、エンジェリアを寝かせる。安心するように、エンジェリアの額に口付けをした。
「おやすみ」
「ふみゅ。おやすみ」
エンジェリアが瞼を閉じると、フォルは、魔物を机の上に並べた。
「今から、君らをこれを使って元に戻す」
フォルは、そう言って、花を見せた。その花は、フォルが魔法で創った花。藍色の花で、香りが強い。
「解呪の花。普段使わないのと、こんな魔法で試した事なんてないから、成功するか分からない。でも、解呪魔法じゃ、どうにもできないんだ。術者じゃなければ解呪できない魔法だから」
解呪魔法でも解呪できないような魔法でも、この解呪の花があれば、解呪できる可能性がある。
だが、一度も試した事がない。失敗した時に何かあるわけではないが、あらかじめ、失敗の可能性を伝えておく。
「期待して失敗されるより、こっちの方が、失敗した時の落胆は少ないだろ? 失敗したらしたで、他の方法を探して、必ず元に戻すけど」
フォルは、そう言った後、魔物を床に置き、花を振り、魔力の粉を浴びせた。
「……ぎゅぅ」
ゼーシェリオンが、フォルに抱きついた。
「にぃ様、ルー、何があってゼロがこんな甘えてくんの? 」
「フォル、リミェラねぇが、会いたかったって。呪いの聖女の怖い感じがなくて、優しい、俺らが知ってるリミェラねぇが、会いたかったって。俺らが、あの二人とリミェラねぇを引き離したのに」
ゼーシェリオンが、泣きながら説明する。
「にぃ様、あの人達は呪いの聖女を処分しろって言ってたよね? 」
「そうだな」
「なら、命令を遂行した上でリミェラを助けられる。ゼロの話からすれば、呪いの聖女とリミェラは別と考えて良さそうだから」
――でも、そうだとすれば、なんで呪いの聖女の処分なんて言い方をしたんだ? そう言えば、僕がこれを思いつくと考えなかったのか? エレとゼロが何か知ってそうだけど、話したくなさそうだから、むりに聞き出したくない。他に調べる方法は……
「……すやぁ、エレは独り言なの。独り言なら言えるの。エレとゼロは、あの世界の魔力量が多くなってるのを感知して原因探したの。そうしたら、神獣さん達いっぱいいたの。寝言でもそれいじょぉ言うのや」
「エレ……ありがと。神獣が関わってる……口封じか、証拠隠滅か。恐らく後者だろうね。とりあえず、リミェラを助けるのもそうだけど、他の場所でも、魔物化している人達がいるみたいだから、それを解放しないと」
「それだと人手が足りないだろう」
「うん。だから協力してもらう。ゼムとフィルがまだここに残ってるから呼んで、手分けして花を配るんだ。エクランダの皇帝。エリクルフィアの名持ちで協力してくれる人がいれば良いけど、いなければ、リプセグ達にでも。ロストの王族達。天族達と、月鬼達、あと、リグ等にも協力してもらう。それと、確かアスティディアに知り合いがいるらしいから、その二人にも協力してもらおう」
エンジェリアが、それを聞いて飛び起きた。
「エレ、フォルと一緒に」
「ゼロとにぃ様でロストとローシャリナ。エレは、ルーとゼムと天界とリューヴロとアスティディアに行って。僕はフィルと二人でエクランダとエリクルフィアに行くよ。エレ、ゼロ、ロストとアスティディアの近くに遺産があると思うからついでに探してきて」
「……ふみゅ。ゼロ、全部じゃないけど、エレ達に関わる事、少しだけお話しして良いの」
「了解」
「行くのはこれで良いにして、二人が来るの待とうか」
「みゅ」
フィルとゼムレーグが部屋に来るのを待ち、全員揃った後、各自転移魔法で、目的の場所へ向かった。