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第15話 ありがと


 ミディリシェルとフォルが穴の中から出ると、ゼノンが心配そうにミディリシェルに抱きついた。


「血の匂いして心配したんだ」


「ふみゅ。もう大丈夫なのフォルも一緒にいてくれるって。エクリシェへ帰ってくれるって」


 ミディリシェルは、そう言って、ゼノンの頭を撫でた。


「フォル、そういえば、ナティージェって人の従弟を保護したって、エルグにぃから」


「ありがと。伝えてくるよ」


「やなの。一緒に行くの」


「俺も」


 ミディリシェルとゼノンは、そう言って、フォルについていった。


      **********


 フォルが向かったのは、洋館の中。薄暗く、歩くたびにギシギシと音がなる。


 ミディリシェルは、ぷるぷると震えながら、フォルにべったりくっついて歩いている。


「ミディ、歩きづらい。離れて」


「やなの」


「あっ、ヴァリジェーシル様」


 アメジスト髪のツインテールの少女が、大量の素材を持ってミディリシェル達の方に来る。


「ナティージェ、従弟の保護したって」


「そうですか。感謝します……もしかして、双子姫様?初めまして、ナティージェです」


「ナティージェ、何してたの?」


「やられっぱなしは性に合わないんで、ここのもんもらっていきましょうかと」


「ほんと良い性格してるよ」


 ――みゅ?なんか音聞こえる。


 ミディリシェルは、洋館のどこかから、僅かに聞こえる音に気づいた。その音は、カチッカチっと、一定のリズムを保っている。


 ――どこかで聞いた覚えが……


 その音がなんなのか。思い出せそうで思い出せない。


「どうしたの?」


「音が聞こえるの。カチッカチって」


「聞こえねぇぞ?」


「ゼノン、音魔法使いな」


「あっ。それがあったか」


「ふみゅ。不思議な音なの。ミディが作る爆弾じゃなくて、爆発魔法具の音みたいな、心地良い音なの」


 ミディリシェルは、そう言いながら、なんの音なのか思い出そうと悩んでいる。


「なぁ、お前それ答え……爆弾?」


 気づいた時にはもう遅い。轟音が響く。

 爆弾が爆発した。


      **********


「ふみゃ?ゼロ?どこ?」


 崩れた洋館。ミディリシェルの立っている場所は、なぜか瓦礫がない。


「ミディ、そういうのは今度から早く言って」


「フォル、これ」


「ゼノンとナティージェは転移魔法で逃した。君は、咄嗟にそんな事すれば、魔力調整できずに発作起こしそうだったから」


「ぷみゅ」


 どうやら、ミディリシェルは、フォルの防御魔法により守られたようだ。


「なにがあった!」


「ふみゃ?エルグにぃとルーにぃなの」


 爆音を聞きつけたのだろう。ルーツエングとイールグが心配そうに駆けつけた。


「怪我はないか?」


「ふみゅ」


「ミディ、フォル!」


「ご無事ですか?」


 フォルが転移魔法で避難させた、ゼノンとナティージェが戻ってきた。


「……フォル、あの手紙の感謝の部分だけ受け取っておく」


「俺も、その部分だけ受け取ろう」


「……うん。ありがと」


「ひみゃぁ」


 回復魔法を使っただけでは、失った血は戻らない。ミディリシェルは、貧血を起こした。


「大丈夫?」


「くらくら」


「帰って休もうか……僕先帰るから」


 フォルが、そう言って笑顔を見せた。そして、転移魔法でエクリシェへ帰った。


 ミディリシェルだけは連れて。


      **********


 エクリシェ下層のフォルの部屋。最下層は、ミディリシェルとゼノンの縫いぐるみや写真、プレゼントで溢れていたが、下層は落ち着いている。


 フォルが、ミディリシェルをベッドの上で寝かせて、その隣に座った。


「最下層のお部屋ってなんなの?」


「君らがいなくて寂しかった時に、その寂しさを紛らわすために使ってた」


「ぷみゅ。ありがと、戻ってきてくれて」


「礼を言うのは僕の方だ」


「ねぇ、今日は一緒に寝てくれる?」


「うん」


「だいすき」


「僕もだよ」


 フォルが帰ってきてくれた。それが嬉しく、ミディリシェルは、フォルの手を握って離さない。


「寝な。側にいるから」


「やなの。寝たくない。もう少しだけ、お話していたい」


「……君が寝てくれたら、僕が持ってる記憶を返すよ」


「記憶?それよりもフォルを堪能したい!フォルらぶ!」


 ミディリシェルは、握っているフォルの手に口付けをした。その後、顔を擦り寄せ、愛情アピールをする。


「ほんとに変わんないね。僕を好きでいてくれるとこも、全部変わらない」


「ふみゅ。ミディはミディなの。にゃむにゃむなの」


「……エンジェリルナレージェ。昔の君はそう呼ばれてたんだ」


「ぷみゃ⁉︎」


 フォルが、ミディリシェルの額に口付けをした。


 ミディリシェルは、真っ赤に染まった顔を布団で隠す。


「相変わらず可愛い。僕のお姫様は」


「は、反則なのぉ」


「僕のお姫様に可愛いっていう事が?それとも、さっきエレがしてくれたののお返しをしてあげたのが?」


「どっちも。ミディ、今まで一人だったから、びっくりしちゃうの。ミディのペースに合わせるの」


「それやったらずっと近づく事すらできなくない?ぎゅぅもだめとかってそのうち言ってきそう」


「それは……ふみゅ……否定はできないの。でも、慣れるようにがんばるから」


 ミディリシェルは、これでもだいぶ譲渡している。だが、フォルは


「だめ。もっと近くが良い。あの計画を成功させていたら、外に出さなくて良いのを良い事に、僕が得するような教育を受けさせて、もっと色々とする予定だったんだから」


「ふみゃ⁉︎そ、そんな計画が⁉︎……エレ、ほんとに飼ってはくれなかったの?餌付けして、飼ってくれるわけじゃなかったの?」


「飼うわけないって……いや、住む場所与えて、世話するって事は飼うと変わらないのか?でも、恋人にしようとしているのに、飼うとは違うんじゃ……」


 ミディリシェルの言葉に、フォルが悩み始めた。


 ――ふみゅ?そういえば、ミディって、ここにきて、ゼノンとフォルに美味しいご飯もらって……ふみゃ⁉︎


「ミディはここで飼われてたの⁉︎」


 餌付けされて、世話をされているというのを考えると、ミディリシェルは、そういう結論に至った。


「……うん。飼ってないから。君にとって何が飼われているって基準になるのか知りたい」


「ご飯で餌付けされた。お世話いっぱいされた。主にゼノンに。だからミディの飼い主はゼノンなの」


「うん。あの子は多分、自分がお兄ちゃんとして、妹の世話をするぞって感じにしか思ってないと思うから。ペットとして見てないと思うから」


「ふみゅ……聞いてみるの」


 ミディリシェルは、魔原書リプセグの記述や前回の記憶で覚えた事がある。それを、ここへくる前に使っていた。


 ――ゼノン……みゅ……共有ちゃんとできてる気がするのに


 ――ミディー、タスケテー、虫いっぱいでやだー。タスケテー、俺のミディー


 転移魔法は使えず、魔の森オーポッデュッデュで一夜を過ごす事になっているのだろう。森の中であれば、虫が大量にいるのは分かりきっている事。


 ミディリシェルは、助けるようにフォルに頼むべきなのか、ルーツエング達がいるから、このフォルと二人っきりの時間を大事にするべきなのか悩む。


「……」


「どうしたの?」


「ゼノンがうるさ……虫さんいっぱい助けてって言ってるの。でも、ミディ、フォルと二人でふみゅんってしたい。一緒に寝たい。フォルの側から離れたくない」


「主様やイールグがついているんだ。危険な事なんてない。ほっとけば良いよ」


「ふみゅ。ほっとくの……ふぁぁぁ……やなの!」


 あくびが出て、ミディリシェルは、寝るように言われると思い、先手を打った。


「寝たら、いなくなってるかもしれないからやなの」


「ならないよ。起きた時、側にいる。だから、安心して」


「……ふみゅ。絶対だよ?ミディ、寂しくしちゃだめだから」


「うん。おやすみ」


「おやすみ」


 ミディリシェルは、フォルの手を握ったまま、瞼を閉じた。


「ありがと。僕のお姫様」

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