ミディリシェルとフォルが穴の中から出ると、ゼノンが心配そうにミディリシェルに抱きついた。
「血の匂いして心配したんだ」
「ふみゅ。もう大丈夫なのフォルも一緒にいてくれるって。エクリシェへ帰ってくれるって」
ミディリシェルは、そう言って、ゼノンの頭を撫でた。
「フォル、そういえば、ナティージェって人の従弟を保護したって、エルグにぃから」
「ありがと。伝えてくるよ」
「やなの。一緒に行くの」
「俺も」
ミディリシェルとゼノンは、そう言って、フォルについていった。
**********
フォルが向かったのは、洋館の中。薄暗く、歩くたびにギシギシと音がなる。
ミディリシェルは、ぷるぷると震えながら、フォルにべったりくっついて歩いている。
「ミディ、歩きづらい。離れて」
「やなの」
「あっ、ヴァリジェーシル様」
アメジスト髪のツインテールの少女が、大量の素材を持ってミディリシェル達の方に来る。
「ナティージェ、従弟の保護したって」
「そうですか。感謝します……もしかして、双子姫様?初めまして、ナティージェです」
「ナティージェ、何してたの?」
「やられっぱなしは性に合わないんで、ここのもんもらっていきましょうかと」
「ほんと良い性格してるよ」
――みゅ?なんか音聞こえる。
ミディリシェルは、洋館のどこかから、僅かに聞こえる音に気づいた。その音は、カチッカチっと、一定のリズムを保っている。
――どこかで聞いた覚えが……
その音がなんなのか。思い出せそうで思い出せない。
「どうしたの?」
「音が聞こえるの。カチッカチって」
「聞こえねぇぞ?」
「ゼノン、音魔法使いな」
「あっ。それがあったか」
「ふみゅ。不思議な音なの。ミディが作る爆弾じゃなくて、爆発魔法具の音みたいな、心地良い音なの」
ミディリシェルは、そう言いながら、なんの音なのか思い出そうと悩んでいる。
「なぁ、お前それ答え……爆弾?」
気づいた時にはもう遅い。轟音が響く。
爆弾が爆発した。
**********
「ふみゃ?ゼロ?どこ?」
崩れた洋館。ミディリシェルの立っている場所は、なぜか瓦礫がない。
「ミディ、そういうのは今度から早く言って」
「フォル、これ」
「ゼノンとナティージェは転移魔法で逃した。君は、咄嗟にそんな事すれば、魔力調整できずに発作起こしそうだったから」
「ぷみゅ」
どうやら、ミディリシェルは、フォルの防御魔法により守られたようだ。
「なにがあった!」
「ふみゃ?エルグにぃとルーにぃなの」
爆音を聞きつけたのだろう。ルーツエングとイールグが心配そうに駆けつけた。
「怪我はないか?」
「ふみゅ」
「ミディ、フォル!」
「ご無事ですか?」
フォルが転移魔法で避難させた、ゼノンとナティージェが戻ってきた。
「……フォル、あの手紙の感謝の部分だけ受け取っておく」
「俺も、その部分だけ受け取ろう」
「……うん。ありがと」
「ひみゃぁ」
回復魔法を使っただけでは、失った血は戻らない。ミディリシェルは、貧血を起こした。
「大丈夫?」
「くらくら」
「帰って休もうか……僕先帰るから」
フォルが、そう言って笑顔を見せた。そして、転移魔法でエクリシェへ帰った。
ミディリシェルだけは連れて。
**********
エクリシェ下層のフォルの部屋。最下層は、ミディリシェルとゼノンの縫いぐるみや写真、プレゼントで溢れていたが、下層は落ち着いている。
フォルが、ミディリシェルをベッドの上で寝かせて、その隣に座った。
「最下層のお部屋ってなんなの?」
「君らがいなくて寂しかった時に、その寂しさを紛らわすために使ってた」
「ぷみゅ。ありがと、戻ってきてくれて」
「礼を言うのは僕の方だ」
「ねぇ、今日は一緒に寝てくれる?」
「うん」
「だいすき」
「僕もだよ」
フォルが帰ってきてくれた。それが嬉しく、ミディリシェルは、フォルの手を握って離さない。
「寝な。側にいるから」
「やなの。寝たくない。もう少しだけ、お話していたい」
「……君が寝てくれたら、僕が持ってる記憶を返すよ」
「記憶?それよりもフォルを堪能したい!フォルらぶ!」
ミディリシェルは、握っているフォルの手に口付けをした。その後、顔を擦り寄せ、愛情アピールをする。
「ほんとに変わんないね。僕を好きでいてくれるとこも、全部変わらない」
「ふみゅ。ミディはミディなの。にゃむにゃむなの」
「……エンジェリルナレージェ。昔の君はそう呼ばれてたんだ」
「ぷみゃ⁉︎」
フォルが、ミディリシェルの額に口付けをした。
ミディリシェルは、真っ赤に染まった顔を布団で隠す。
「相変わらず可愛い。僕のお姫様は」
「は、反則なのぉ」
「僕のお姫様に可愛いっていう事が?それとも、さっきエレがしてくれたののお返しをしてあげたのが?」
「どっちも。ミディ、今まで一人だったから、びっくりしちゃうの。ミディのペースに合わせるの」
「それやったらずっと近づく事すらできなくない?ぎゅぅもだめとかってそのうち言ってきそう」
「それは……ふみゅ……否定はできないの。でも、慣れるようにがんばるから」
ミディリシェルは、これでもだいぶ譲渡している。だが、フォルは
「だめ。もっと近くが良い。あの計画を成功させていたら、外に出さなくて良いのを良い事に、僕が得するような教育を受けさせて、もっと色々とする予定だったんだから」
「ふみゃ⁉︎そ、そんな計画が⁉︎……エレ、ほんとに飼ってはくれなかったの?餌付けして、飼ってくれるわけじゃなかったの?」
「飼うわけないって……いや、住む場所与えて、世話するって事は飼うと変わらないのか?でも、恋人にしようとしているのに、飼うとは違うんじゃ……」
ミディリシェルの言葉に、フォルが悩み始めた。
――ふみゅ?そういえば、ミディって、ここにきて、ゼノンとフォルに美味しいご飯もらって……ふみゃ⁉︎
「ミディはここで飼われてたの⁉︎」
餌付けされて、世話をされているというのを考えると、ミディリシェルは、そういう結論に至った。
「……うん。飼ってないから。君にとって何が飼われているって基準になるのか知りたい」
「ご飯で餌付けされた。お世話いっぱいされた。主にゼノンに。だからミディの飼い主はゼノンなの」
「うん。あの子は多分、自分がお兄ちゃんとして、妹の世話をするぞって感じにしか思ってないと思うから。ペットとして見てないと思うから」
「ふみゅ……聞いてみるの」
ミディリシェルは、魔原書リプセグの記述や前回の記憶で覚えた事がある。それを、ここへくる前に使っていた。
――ゼノン……みゅ……共有ちゃんとできてる気がするのに
――ミディー、タスケテー、虫いっぱいでやだー。タスケテー、俺のミディー
転移魔法は使えず、魔の森オーポッデュッデュで一夜を過ごす事になっているのだろう。森の中であれば、虫が大量にいるのは分かりきっている事。
ミディリシェルは、助けるようにフォルに頼むべきなのか、ルーツエング達がいるから、このフォルと二人っきりの時間を大事にするべきなのか悩む。
「……」
「どうしたの?」
「ゼノンがうるさ……虫さんいっぱい助けてって言ってるの。でも、ミディ、フォルと二人でふみゅんってしたい。一緒に寝たい。フォルの側から離れたくない」
「主様やイールグがついているんだ。危険な事なんてない。ほっとけば良いよ」
「ふみゅ。ほっとくの……ふぁぁぁ……やなの!」
あくびが出て、ミディリシェルは、寝るように言われると思い、先手を打った。
「寝たら、いなくなってるかもしれないからやなの」
「ならないよ。起きた時、側にいる。だから、安心して」
「……ふみゅ。絶対だよ?ミディ、寂しくしちゃだめだから」
「うん。おやすみ」
「おやすみ」
ミディリシェルは、フォルの手を握ったまま、瞼を閉じた。
「ありがと。僕のお姫様」