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第3話 新たな居場所


 大きな机に、幾つも並んでいる椅子。それに、映像視聴魔法具。特定の映像を巨大な画面で見る事ができる、高級魔法具。その手前にはふかふかそうなソファ。


「ミディ、ソファと椅子どっちが良い?ああ、それとも、このまま僕に抱かれているっていう選択肢も」


「……ソファなの。ふかぁなソファに一度座ってみたいって思ってたから」


「了解」


 ミディリシェルは、リビングへ行くのに、フォルに抱っこしてもらっていた。理由は、まだ本調子ではないから、安静にしていて欲しいという事だ。


「ふぁぁぁ、変装魔法具つけていてもこの可愛さ。久々に見るこれは、破壊力強すぎ」


「これが、生ミディ。初めて見るけど、めちゃくちゃ可愛い」


 ミディリシェルよりも一、二歳年上だろう二人の少女が、ソファを堪能するミディリシェルに寄ってくる。


「みゅにゃ⁉︎フォル防御なの」


 ミディリシェルは、フォルの背に隠れる。かなり警戒している。


 ゼノンとフォルへの警戒心は、ほとんどないに等しいが、他の相手では違う。


「二人とも、僕のお姫様を怖がらせないでくれる?会いたかったのは分かるけど、ミディは人見知りなんだから、少しは落ち着いて」


 フォルがそう言うと、ミディリシェルは、こくこくと頷いた。


「あっ、ごめんね。初めまして、私、リーミュナ・アニシェフ・リシェシミール。よろしくね。ミディちゃん」


「わたしは、ピュオ・リリシェア・キュリフェー」


「……ミディリシェル・エレノーズ・エンシェルトなの……しゃ……だめなの。ゼノンとお約束なの」


 ミディリシェルは、威嚇しようとしたのをやめた。


「ミディ、怖いなら、手、繋いでいてあげようか」


「みゅ」


 フォルと手を繋ぐと、安心できた。


「アゼグとノヴェもこっち来な」


「うん。ごめん、朝食の用意今終わったところで。写真で見たくらいだけど、本当に可愛いね。初めまして、俺はノーヴェイズ・コンゼッグ・ギュレド」


「みゅにゃ⁉︎ファンなの!」


 ノーヴェイズ・コンゼッグ・ギュレドといえば、かなり有名だ。世界管理システムという、巨大魔法機械の設計者であり、他にも数々の魔法具を設計している。

 その多くが、高く評価され、魔法具の歴史の本には、幾つものノーヴェイズ作の設計図が載っている。


 ミディリシェルは、憧れの人物に会う事ができ、目を輝かせている。


「俺も君のファンだよ。天才魔法具技師ミーティルシア専属の設計者ミディリシェル。この界隈だと有名だから」


「みゅぅ。知っていただけているなんて感激なの……でも、ミディ、その時の記憶なくて……ぼんやりとは覚えているのに……」


「……大丈夫だよ。いつか絶対に思い出せる。それに、ルシアとも会う事ができるよ。ルシアなら、今はいないけど、ここの住人だから」


「みゅ。フォルのお話は信じるの」


 目の前に憧れだった人物だっているのだ。記憶のない人物がいてもおかしくはない。


 なぜだか、そう思える。


「初めまして、俺はアゼグ・シークナス・ロスト。ロストと言っても、そこでの記憶はないけど」


「極寒の地なの。行ってみたい」


「前に連れてってもらったけど、おすすめはしない場所だ。あまりの寒さに、普通の人だと凍えるから」


「この子なら大丈夫でしょ。僕が一緒にいて、魔法で温めてあげるから。ミディ限定で。他の誰かついてきたとしても、ミディ限定で」


 フォルが笑顔でそう言った。


 ――ふみゅ?フォルの笑顔はどきどきなの。なんでだろう?


「アゼグ、ノヴェ、あの二人はどこ?」


「エルグは部屋いるって」


「じゃあ、二人とも主様の部屋か。ミディ、また抱っこするよ」


「みゅ」


 ミディリシェルは、フォルに抱っこされた。


 先程聞いていた相手の場所だろう。フォルが、ミディリシェルを抱っこしたままリビングを出た。


      **********


 シンプルな内装。紙や本が多い。


 部屋の中には、ミディリシェル達以外に、二人の青年がいる。


「主様、ミディを連れてきたよ」


「主様?フォルってお仕事してるって言っていたけど、もしかして」


 ミディリシェルは、多くのものを知らない。だが、ミディリシェルが復元してきた本の内容。つまりは、昔の記述に関しての事。それならば、知っている事はいくつかある。


 ――そういえば、本でも、緑系の髪に黄金の瞳って……瞳が翠色で気づかなかったの。


 神獣の中でも、貴重な黄金蝶。その特徴に、フォルは入っていた。それに、二人の青年も。


 そして、極め付けは、主様。


 ミディリシェルの顔色が悪くなる。手が震える。


「……ふぇ」


「怖がらなくても大丈夫だよ。君は保護対象だから」


「そう、なの?」


「うん。でも、話だけは聞かせて欲しいかな。今の君が持っている知識も含めて」


「……みゅ」


「その前に自己紹介からだな。俺はイールグ・ギュリン・ジェリンド」


「ルーツエング・レルグ・ヴァリジェーシル。本家の当主をしている」


 ――……似てるの。なんとなく雰囲気とか。でも、フォルって……


 ルーツエングとフォルの雰囲気が似ているように感じる。だが、フォルは、ベレンジェアと名乗っていた。


 ミディリシェルの抱いた疑問は、すぐに解決できた。


「あの時はつい癖で。僕は、フォル・リアス・ヴァリジェーシル。こう見えても、結構高身分なんだ。君の相手にピッタリじゃない?」


「ミディが釣り合ってないの。それで、ミディは何を教えれば良いの?」


「まずは、管理者って言葉を聞いた事あるかな?」


「みゅ。管理者は、世界を管理する組織なの。いっぱい噂……本で書いてあったけど、顔を隠していて、素性が知られてないのが特徴なの」


 ミディリシェルは、本で知る以外にも一つだけ外の世界を知る方法があった。だが、それは、ミディリシェルではなく、その知るために使っているあるものの安全上のため、言う事はできない。それを言いそうになり、少し焦った。


「その通りだよ。なら、ギュリエン、ギュシェル、ギュゼル。これに聞き覚えは?」


 そう言ったフォルは、寂しげな表情に見えた。


「……みゅ?知ってるの。ギュリエンは、ギュシェルの拠点。ギュシェルは、世界を守護と監視を行う組織。ギュゼルは、ギュシェルが見つけた悪い人に処罰を与えるのと強力な魔物の討伐。ギュゼルは、ギュシェルの執行組織とか言われているって書いてあったの」


「へぇ、さすがだね。その認識で間違いないよ。ついでに、今回僕が君に聞きたい事とかも気づいているのかな?」


 フォルの問いに、ミディリシェルは、こくりと頷いた。


「……でも、教えたくないの。だって、それを教えちゃえば、あの国はなくなっちゃうんでしょ?だったら、教える事したくない」


「ほとんどの場合は、二度と僕らが動かざる得ないような事をやらないように言うだけ。それ以上になる場合もあるにはあるけど」


 ――管理者の協力するのは義務って書いてあったの。でも……居場所がなくなるなんてやだよ。


 リブイン王国がしている事は、フォルの言うそれ以上に当たるような事。ミディリシェルは、その事を知っている。


 だからこそ、その話を言いたくはない。


「お願い、ミディの居場所を奪わないで。ミディは、あそこで、幸せに暮らすの。それを捨てるのはやなの」


「本当にそうなれると思っているのか?今まで会いにきてすらくれなかった相手が、急に愛してくれるなんて、そんな都合の良い話が本当にあると思っているのか?」


「してくれるの!ミディを愛してくれてるって言っていたの!会えないのは……」


 イールグの言葉を、それが事実なのだと気づいている。だが、ミディリシェルは、まだ、それを受け入れる事ができない。瞳に涙を溜めている。


「そう信じたいといだけだろう。本当は気づいているんじゃないのか?だからそうやって、自分から何も見ようとしないんじゃないのか?」


「ルー!それ以上は」


「止めないで。ごめん、イールグ。僕がやるべき事なのに、こんな役やらせて」


 止めに入るルーツエングを、フォルが止めた。


「気にしなくて良い。ミディ、すぐに受け入れる必要はない。だが、それを信じて、受け入れられずに裏切られるなんてあってほしくない。できればずっと笑っていて欲しい。それは、嘘じゃない。仕事だからなんて関係ない。俺個人の想いだ」


「……どうして、どうしてそんな事を言ってくれるの?ミディを大事にしてくれるの?ミディにはなんの価値なんてないんだよ?だから、お金稼いでがんばらないと、だめなの。ずっと、そうだったのに」


「なら、なぜその言葉を信じてくれる?貴様をここへ置いておくための嘘と思わない?」


「……信じたいから。嘘って思えないから。それ以外に理由なんてないの」


「単純だな。だが、同じだ。単純なんだ。そんな複雑なものなんてない。今から色々と複雑な話はするが、俺のその想いは、大事にする理由は、単純なんだ。それと、貴様の価値なんて知らん。興味ない。そんなもんを一々言って考えさせるような輩など気にしなくて良い。そんな輩、俺が全部始末してやる」


 ミディリシェルは、小さく口を開けてイールグを見る。


「おかしいの。ここの人おかしいの。でも、とっても温かいの。みゅにゃなの。でもでも、ミディも単純だから、言えないの……みゅ?始末はだめなの⁉︎穏便に済ませないとなんだよ?めだよ?」


「穏便にか……善処しよう」


「みゅ。あのね、ミディが、どこにもいれなくなっても、いてくれる?なにもできないミディを捨てずにいてくれる?愛してくれるの?」


「逃げても逃さん。好きな場所にもいくらでも連れてってやろう」


 ミディリシェルは、瞳に溜まった涙を手で拭って、こくりと頷いた。


「……お話するの。でも、ミディは説明苦手。頑張るけど苦手なのが苦手。だから、がんばって理解して?」


「なんでも理解してやろう」


「みゅ」


 ミディリシェルは、リブイン王国にいた時に知った怪しい話を全て話した。


      **********


 国王の関係者が行っていた裏取引。ミディリシェルの出所不明な本の復元。復元の際に偶然見つけた本の内容。ミディリシェルが来てからの、金回りの良さ。


 ミディリシェルは、できる限り詳しくフォル達に説明した。


「ありがと。君のおかげで色々と分かったよ。あとは、証拠集めと、どこでやるかだね。主様、どうする?」


「近日中にある貴族が集まるのは……少し遅くはなるが、調べておく」


 リブイン王国で貴族達の集う日で一番近いものは、ミディリシェルの婚約発表。


 ――……みんな、ミディに優しいの。だから、ミディも何か力になりたい。でも……


 ミディリシェルが一言言えばその日は決まる。だが、その勇気が出ない。


 ミディリシェルは、ずっと持っていた紙を手に取った。


「それ、どうしたの?」


「読めないけど、ミディにお薬くれた国王さんからのお手紙」


「……読んでみて良いかな?」


「みゅ」


 ミディリシェルは、フォルに手紙を渡した。


「助けられなくてごめんなさい。私が不甲斐無いばかりに、ミディがこんな場所にいなければならなくなってごめんなさい。この薬は、ミディの体質に合う薬です。使ってください……この字って」


「みゅ?」


「……君が言っていた元リブス王国の国王の字だ。そうか、無事、だったんだ」


 ミディリシェルは、その手紙はずっとリブイン王国の国王からだと思っていた。だが、それは違った。


 ミディリシェルは、ずっと気づかずに誰かから、優しさを貰っていた。


 ――……ミディ、優しさを貰ってなにもしないなんて、そんなのやなの!ミディは、ちゃんと返したいの!


 その手紙が、ミディリシェルに勇気を与えた。


 ミディリシェルは、凛とした目でフォル達を見た。


「ミディの婚約発表を使って良いの。ミディ、証人になるの。証人がいれば、証拠をいっぱい集める必要はないって書いてあったの」


「ほんとに良く知ってるよ。君がそう決めたなら、なにも言わない。主様、当日はゼノンも同行させて良いかな?あの子、ミディを心配してるんだ」


「構わない。ゼノンの正装はなければこっちで用意する」


「助かるよ。ミディ、今日は部屋に戻ろうか。それと、薬はいやでも飲もうね?」


「ぷにゃ⁉︎ふにゃふにゃ」


 ミディリシェルは、イールグとルーツエングを見るが、見て見ぬ振りをされている。


「……口移しでいくか。ミディ、また抱っこでお部屋戻らせてあげる」


「みゅ。がまんするの」


 ミディリシェルは、薬が待っている部屋へと、フォルに抱っこされて向かった。


 薬は、フォルに強制的に飲まされた。

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