グランスライムが動き出すよりも速く、私は先手必勝とばかりに相手に向かって突っ込んでいく。
それに反応するようにスライムの身体からは複数の触手が現れ、私を絡め取ろうとその手を伸ばす。
「そんなの、捕まるわけないでしょっ!」
迫りくる触手をメイスで振り払うと、その強力な溶解液で煙を上げてメイスが溶けていく。
一瞬にして先端部分がなくなったメイスに修復スキルをかけて元に戻すと、そのまま勢いを殺さずに振りかぶったメイスでスライムの身体をぶん殴る。
そうすればメイスの頭はあっさりとグランスライムの身体に飲み込まれ、そしてそのまま溶けてなくなった。
「うーん、やっぱり駄目か……」
持ち手部分だけになったメイスを持ちながらスライムから距離を取ると、私は渋い表情を浮かべながら呟いた。
”溶けるのとかヤバすぎだろ”
”これほどに物理が効かない相手はなかなか居ないだろ……”
”これはさすがに、穂花ちゃんでも無理なんじゃ……”
さっきの一連の流れを見て、コメントも私を心配する声で溢れる。
そんな彼らの心配をよそに、私はあくまで好戦的な笑みを崩さずにメイスを修復した。
「これよ、これ。これこそが私の求めていた戦いね。さて、今回はどう攻略してやろうかしら」
”えぇ……?”
”なんで楽しそうなの?”
”そういえば、この子ってSランクとかいう異常者だったわ”
久しぶりの難敵にテンションが上がった私に困惑するコメントをよそに、ぐるぐると腕を回した私は再びグランスライムに向かって突っ込んでいく。
そんな私の行動に、グランスライムももう一度触手を伸ばして対応してくる。
「だから、当たらないってば!」
さっきと同じようにメイスで振り払い、溶けたメイスを修復してはまた触手を薙ぎ払う。
そんな行動を繰り返していると、不意にスライムの動きが変わった。
無数の触手を網のように広げたかと思うと、そのまま私の周囲を完全に取り囲む。
そうして逃げ場がなくなった私を呑み込もうと、本体部分が一気にせり上がって接近してくる。
”やばっ!?”
”溶かされるっ!?”
まさにスライムが私の身体を呑み込もうとする寸前、地面を力強く踏みしめた私は渾身の力でメイスを振るった。
「おりゃあぁぁっ!!」
メイスの一撃から発生したすさまじい風圧はスライムの身体を押し返し、逆にその体積の四分の一ほどを吹き飛ばしてしまう。
予想外の反撃を受けたスライムは驚いたように私から距離を取ると、少しだけ小さくなった身体を震わせていた。
「ふふん♪ 触れられないなら、触れずに吹き飛ばせばいいだけなのよ」
さっきまでと違いまったく溶けていないメイスを見せつけるようにしながら、私は得意げにそう呟いた。