カメラに向かってにっこり微笑むと、コメントはものすごい速さで増え続けていた。
”なるわけねぇだろ”
”誰でもこんな風に戦えたら、ダンジョンなんかひとつ残らず攻略されつくしてるわ”
”あんまり一般人を舐めるなよ”
「はいはい、ごめんなさいね。さすがに私だって、これが普通じゃないことくらいは分かってるわよ」
ちょっとした冗談のつもりだったのに、思いのほか語気の強いコメントに苦笑いを浮かべてしまう。
「ともかく、深層は基本的にこんな感じで攻略していくつもりだから。頑張って慣れていってね」
そう話を締めくくって、私はさらにダンジョンを奥まで進んでいく。
途中で出てくるモンスターを適当に叩き潰しながら、私は少し不満げに唇を尖らせた。
「なんだか、今日はパッとしない相手しか出てこないわね。どうせなら、もっとヤバいモンスターが出てきてくれたらいいのに……」
じゃないと、大した修行にならない。
「それに、配信的にもあんまり映えないんじゃないかしら?」
”いや、そんなことはない”
”そもそも深層の映像ってだけで配信は勝手に盛り上がるって”
”ていうか、さっきからすごいあっさり倒して回ってるけどそのモンスターだって普通はヤバすぎて倒せないからね”
「そんなこと言っても、私にとっては大した相手じゃないんだからしょうがないでしょ。そもそも、今日ここに来たのは物理の効きにくいモンスターとの戦い方を研究するためなんだから」
それなのに、現れるのは物理攻撃が普通に効く相手ばかり。
これではわざわざ来た意味がなくなってしまう。
そんな風に不満を露わにしながらダンジョンを進み続けていると、ソレはいきなり現れた。
ズルッ、ズルッと引きずるような水っぽい音が聞こえてきたかと思えば、暗闇からいきなり数本の触手が飛び出してくる。
「ふっ!!」
迫りくる触手をメイスで払うように振り払うと、ソレは簡単にはじけ散るように千切れて壁に張り付く。
その触手に遅れるようにして暗闇の奥から現れたのは、私の身長の三倍以上ある巨大な緑色のスライムだった。
「へぇ、ようやく骨のある相手が現れたわね。……まぁ、骨はないんだけど」
”言ってる場合か!?”
”なんだこのデカいスライム!?”
”こんなのもはやスライムじゃないだろっ!”
コメントでは好き勝手言ってるけど、こいつもれっきとしたスライムの一種である。
「こいつはグランスライムね。巨大な体積の身体と、あらゆる物を溶かす強力な酸性を持つ深層でも凶悪な部類に入るモンスターよ。ちなみに、スライムの特徴通り物理攻撃はほとんど効かないわ」
まさに、今日の私にとって理想的な相手である。
ふぅっと大きく息を吐いて深呼吸をすると、私は気合を入れ直すようにメイスを握る手に力を込める。
「さぁ、本格的に修行の始まりよ」