”なにあれっ!? 怖すぎるんだけど!”
”腕でっか……。あんなの、触られただけで殺されそう”
”いや、それよりも俺には攻撃の瞬間が見えなかったんだけど……”
”安心しろ。俺にも見えなかった”
”全然安心できなくて草”
「ギガントマキナか。まぁ、準備運動にはちょうどいい相手ね」
盛り上がるコメントとは正反対に、私は少し拍子抜けしたように小さく呟く。
深層で出会うモンスターの中でも、ギガントマキナは私にとって比較的相性がいい。
その巨体に見合わず動きは速いものの、所詮はデカい両腕を持った異形の人型だ。
殴れば倒せるようなモンスターなら、どれだけ戦っても私が負ける要素は見当たらない。
「それじゃ、たまには配信らしいこともしてみようかしら。視聴者のみんなに、誰でもできるギガントマキナの倒し方を授けましょう」
少し余裕のできた私は、カメラに向かってそう告げると一気にその場から駆け出した。
一瞬で最高速度まで達した私の接近に反応したギガントマキナは、両手を振り回してそれに応戦する。
まるで嵐のような巨大な腕の猛攻へとまっすぐ突っ込む私は、その間を掻い潜るようにしながら少しずつ前へと進んでいく。
もちろんその間にも、カメラに向かって解説することを忘れない。
「一見すると避けられそうにないくらいの乱打だけど、腕の数は結局2本しかないから。どれだけ振り回しても、どこかに必ず隙間は生まれるの。そこを見切って進めば、一撃も食らわずに懐まで入り込めるわ」
”無理すぎてもはや笑えてきた”
”それができるのって、一部の異常者だけなんですよ”
”誰でもできる(できるとは言ってない)”
”正攻法みたいに言ってるけど、絶対特殊な戦い方だろ”
なにやらコメントも盛り上がっているみたいだけど、さすがにそれに目を通すだけの余裕はない。
一瞬でも気を抜けば、迫りくる巨大な腕に叩き潰される。
まるで虫になったような気分で腕の猛攻を潜り抜けると、私はギガントマキナの懐へと到達した。
大きすぎる両腕のせいで空白地帯となっているそこは、先ほどまでの嵐のような猛攻が嘘のように静かだった。
「ここまで来れば一安心。……と思ったら油断大敵よ」
深層に潜むモンスターが、そんなに簡単に倒されてくれるはずはない。
いきなりギガントマキナの腹が縦に割れたかと思えば、そこには無数の鋭い牙が生えた巨大な口が姿を現した。
”うげぇっ!? グロすぎ!!”
”夢に出てきそう……”
そのまま大口を開けて呑み込もうと迫ってくる相手に向かって、私は横合いからメイスでぶん殴る。
そうすれば開いた口はその衝撃で勢い良く閉まり、牙同士がぶつかり合って砕けていく。
私の腕程の太さのあるその牙のかけらを掴んだ私は、そのままそれをギガントマキナの首めがけて突き立てる。
「グオォォオォォォッ!?」
深々と刺さった牙の痛みに雄たけびを上げる相手に追い打ちをかけるように、メイスを使って牙をさらに奥まで打ち込む。
ゴツッと鈍い音を立ててさらに食い込んだ牙は、そのままギガントマキナの首の骨を折る。
一瞬だけビクッと身体を震わせたギガントマキナの瞳からは光が消え、ゆっくりと地面に崩れ落ちる途中でその体は霧となって消えた。
「はい、これで終わり。以上が、誰でもできるギガントマキナの倒し方よ。参考になったかしら?」