連続探索者襲撃事件(私命名)を解決すると心に決めた翌日、私は学校をサボって朝からダンジョンへと潜っていた。
と言うのも、昨日の寝る前にベッドの上で思考を巡らせていた私は、ある重大な懸念事項に気づいてしまったのだ。
あれ? そもそも私ってあの黒影を倒せなくね?
一度だけ対峙した時に殴った感触的に、あれって物理攻撃にかなりの耐性を持っているタイプだと推察できる。
まったく効かないわけじゃないけど、生半可な攻撃ではそもそもその耐性を突破することができない感じだ。
となると、基本的にメイスで殴るゴリゴリの物理攻撃しかできない私にとっては天敵のような存在と言っても過言ではない。
殴っても殴ってもほとんどダメージを与えられないのだとすると、負けないにしても絶対に勝てない不毛な泥仕合に発展してしまう可能性が大きいのだ。
……ならば、どうするか。
その答えは、至ってシンプルだ。
「物理が効きにくいなら、パワーを上げてより強く殴ればいいのよ」
人生とはなにごともシンプルイズベスト。
難しく考えるのは苦手だから、私は私のできる一番いい方法を選択していくのだ。
「というわけで、本日は修行配信よ。本当はこんなことやるつもりなかったんだけど、どうせだったら配信しなさいってリンがうるさかったから」
そうカメラに向かって宣言すると、コメントには期待と困惑の声が高速で流れていく。
”いや、草”
”あまりにも脳筋過ぎる……”
”さすがSランクは、やることが規格外すぎる。そこに痺れる憧れる”
”憧れんな。俺はふつうにドン引きしてるわ”
「やかましいわね。文句があるなら、もう配信終わったっていいのよ」
”ごめんなさい!”
”ナマ言ってすいませんでした!!”
”Sランクが戦う貴重な映像を、どうか俺たち一般庶民にお恵みください!”
「別にそこまでへりくだらなくていいんだけど……。はぁ、もういいわ。あなたたちと遊んでたら、時間がいくらあっても足りないもの」
小さくため息を吐くと、私はコメントから視線を外して前を向く。
「最初に言っておくけど、ここからはコメント見てる余裕なんてあんまりないから。さすがの私でも、深層をピクニック気分で歩けるほど頭お花畑じゃないから」
”深層を配信しながら攻略できるだけで十分お花畑なんで大丈夫です”
”むしろなんで配信してんだよ”
”ていうか、深層の映像が全世界に公開されるのって史上初なんじゃ……?”
コメントは再びざわつき始めたみたいだけど、私にそれを構っている余裕はなかった。
不意に全身を粟立たせるような殺気を感じてその場を飛びのいたのと、さっきまで立っていた地面が一瞬で抉り取られるのはほぼ同時。
体勢を立て直しながらメイスを構え見つめる先、暗闇の奥から現れたのは巨大な両腕を持つ異形の怪物の姿だった。