「なんだよ、こんな時間に……。って、遠峰さんからの呼び出しだ。すいません、不知火さん」
「いいわよ、私もそろそろ帰らなくちゃだし。今日は貴重なお話が聞けて、有意義だったわ」
「あはは……。ここでの話は、オフレコでお願いしますね。特に最後の話は、遠峰さんには絶対言わないでくださいね」
「はいはい、分かってるわよ。それより、早く行かないとまずいんじゃないの?」
「やべっ!? それじゃあ俺はこれで!」
そのまま立ち上がって伝票を取ろうとする彼の手を止めると、私はその伝票を横から奪い取る。
「いいわよ。私が払っておくから、あなたは早く行きなさい」
「えぇっ!? いや、でも……」
「さっきも言ったけど、私のほうがあなたより数倍稼いでるんだから」
言いながら長谷川が止める間もなくさっさと会計すると、私たちは居酒屋を後にする。
「その、今日は結局ご馳走してもらう形になっちゃってすいません。この埋め合わせはいずれ!」
「別に、気にしなくて大丈夫よ」
「いえ、そんな訳にはいかないですって。いくらなんでも大人が高校生に奢られっぱなしってのは、格好がつかないんで」
キリッと表情を締める長谷川だけど、お酒で頬を赤くしていては台無しだ。
その表情もすぐに崩れて、ふにゃっとした笑顔を浮かべながら長谷川は何度もお礼を言い続ける。
しばらく長谷川からのお礼を受け続け、少しうんざりし始めた頃に彼もどうやら満足したらしい。
「絶対にお返しはさせてもらいますから! それでは、今日はこれで失礼します!」
最後にそう言って大げさに頭を下げた長谷川は、そのまま大慌てといった様子で繁華街の人ごみに消えていった。
その後ろ姿を見送った後、私は小さくため息を吐いた。
「はぁ……。結局、大した収穫はなしね」
見た目だけなら有能そうな優男の長谷川だけど、ペラペラ喋る割には情報を持っていなかった。
「もしくは、酔ってる振りをしていただけなのかしら。だとしたら、かなりの食わせ者だけど……」
どちらにしても、情報収集は骨折り損になってしまった形だ。
やっぱり、脳筋担当の私に頭脳労働は向いていないらしい。
頭を使うより、身体を使って動き続けるほうが楽だし楽しい。
もう投げ出してしまいたい気持ちが頭をもたげるけど、傷ついた凛子の姿を思い出して気持ちを新たに引き締める。
あの子の仇を取るためにも、私はこんなところで諦めるわけにはいかないのだ。
「もうこうなったら、なにか掴んでるらしい遠峰を脅して情報を吐かせるか……。なんてね」
最後に物騒なことを呟きながら、私も帰宅するために駅へと向かって歩き出した。