「そういえば、事件の捜査ってどこまで進んでるのかしら? もしかして、もう解決寸前まで秒読みだったりして?」
「いやぁ、それが全然なんですよ。被害者にこれと言って接点もなく、犯行時間もバラバラ。分かってることと言えば、犯行は全てダンジョンの中で起こっているということくらいです」
そう言いながら、ジョッキのビールをぐいっとあおる長谷川。
そんな彼の姿を見ながら、私はさらに質問を続ける。
「犯行をダンジョンの中で行えるということは、犯人は探索者ってことでしょ? 優秀な捜査官さんなら、犯人の目星くらいはついてるんじゃない?」
「まぁ、そうですねぇ。一応、何人か候補者は居るみたいですよ。今は管理局で把握している素行の悪い探索者たちを虱潰しにしてるって感じですね」
「やっぱり、素行不良の探索者とかって居るのね。同じ探索者としては、あんまり楽しい話題じゃないわ」
「まぁ、そうでしょうね。一部のせいで、探索者全体が悪く言われるなんてこともよくありますから。とは言っても、不知火さんや園崎さんは大丈夫でしょ。ダンジョン配信、かなり人気になってるみたいですし」
「ええ、ありがたいことにね。でもだからこそ、犯人にとっては絶好の標的なのかもしれないわね」
「確かに、そういう考え方もありますね。園崎さんが今回襲われたのだって、もしかしたら配信の人気に嫉妬したから……? 犯人の行動は少しずつエスカレートしてるって、遠峰さんの見立てが正しかったのかも?」
「遠峰の? 彼は、そう考えて捜査してるの?」
「あっ、いやそれは……。内緒にしてくださいよ。俺がしゃべったなんて知られたら、遠峰さんにどやされちゃうんで」
「別に告げ口したりしないから安心して。でもその代わり、そこまでしゃべったんだから最後まで聞かせてほしいんだけど」
「えぇ……。最後までって言っても、そんなに詳しくは俺も知らないですよ。ただ遠峰さんは、その見立てに確信めいたものを持ってたような気がするんですよね。まるで、犯人が誰かを知ってるみたいな……」
そこまで言って、長谷川はジョッキに残ったビールを一気に飲み干すと首を振って笑った。
「なんて、そんなわけないですよね。もし犯人に目星がついてるなら隠す必要なんてないですし、あの人の性格ならどんな理由をつけてでも拘束しちゃうだろうし」
「いや、それはそれでどうなのかしら……」
「まぁ、捜査が強引すぎるってのは承知してますよ。過去にもそれで探索者に抗議されて上層部と揉めたりもしてますし。……そのせいで、探索者嫌いなんじゃないかって噂まで出回ってて」
そこで言葉を切った長谷川は、声を潜めるようにトーンを落として口を開く。
「実は遠峰さんって、昔は優秀な探索者だったらしいんです。だけどある事件で探索者として戦えなくなって、それで管理局に入ったって聞きました。そのせいで、優秀な探索者を見るとなにか思うところがあるんじゃないかなって……」
と、そのタイミングで突然長谷川のスマホから通知音が鳴った。