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第74話

 長谷川に連れられてやって来たのは、全国チェーンで展開しているいわゆる大衆居酒屋だった。

「いやぁ、すいません。俺ってあんまりこの辺のお店に詳しくなくって」

「別に、かまわないわ。居酒屋なんて未成年だけじゃなかなか入る機会もないし、かえって新鮮かも」

 まぁ、腐っても公務員である管理局職員が夜の居酒屋に未成年を連れて行っていいのかと疑問に思わなくもないけど、私には関係ないことだ。

 たとえ後で例の堅物上司からこっぴどく雷を落とされることになったとしても、それはあくまで自己責任だろう。

「それと、私に気を使う必要はないわよ。適当に頼んでご飯食べるから、あなたも遠慮なくお酒も飲んじゃってかまわないわ」

 居酒屋に来たということは、お酒だって飲むつもりだったのだろう。

 それを私のせいで我慢させたなんて、なんとなく嫌な気分になってしまう。

 それに、お酒を飲んで酔っぱらってくれた方が情報も抜きやすいはずだ。

 そんな私の気持ちを知ってか知らずか、長谷川は分かりやすく嬉しそうに表情を明るくする。

「いいんですか? いやぁ、不知火さんのほうからそう言ってもらえるとありがたいですよ。やっぱりどうしても、未成年と一緒だといろいろありますからねぇ」

 そう言いながら店員を呼んだ長谷川は、本当に遠慮なくいろいろな物を頼み始めた。

「不知火さんも、好きなだけ頼んでいいですよ。今日は、俺の奢りなんで!」

「別に、奢ってもらわなくても大丈夫よ。私、たぶんあなたより稼いでるから」

「あはは……、それはそうでしょうけど……」

 なんとも言えないような微妙は表情を浮かべる長谷川を無視して、私も自分の食べたい物をいろいろと注文していく。

 しばらく経って注文した商品が届き始めれば、私たちはまずお腹を満たすために食事へと手を付ける。

 そのまま食事に集中していると、その間にも楽しそうにお酒を飲み続けた長谷川は少しずつ出来上がる始めていた。

「いやぁ~、なんだか今日はすっごく楽しいなぁ~! 普段は仏頂面の上司としかまともに顔を合わせてないから、不知火さんみたいな可愛い女の子と一緒に食事できるのが嬉しくって嬉しくって……」

「はいはい、ありがとうね。そう言ってもらえたら、わざわざついて来た甲斐があったわ」

 だいぶ酔っぱらって顔を赤らめている長谷川を適当にあしらいながら、私はひとり頃合いを見極める。

「それにしても、管理局の捜査官って仕事も大変なのね。事件の捜査であっちこっち走り回って情報を集めるなんて、なかなかできない仕事よ」

 そうしてだいぶお酒も進んで口が軽くなり始めたタイミングで、私はひっそりと動き始めた。


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