凛子のお見舞いを終えた私は、日の暮れかけた街をブラブラと歩き回っていた。
これと言って用事はないけど、だけど家に帰って休むような気分ではない。
そのまま当てもなく街をさまよっていれば、頭に浮かぶのは後悔の念ばかり。
今回、私は自分の考えの甘さを実感した。
ほかの探索者がどれだけ襲われたとしても、それは自己責任。
誰からも頼まれていない以上、降りかかる火の粉は払ったとしても私が積極的に事件解決に乗り出すつもりはなかった。
だけど、それでは駄目だったのだ。
その考えのまま犯人を放置した結果、凛子が襲われて危うくその命を失うところだった。
こちらから積極的に関わらなくても、時として悲劇は向こうの方から遠慮なくやってくる。
「だったら、その元凶は叩き潰さないとね」
二度と凛子に危険が訪れないためにも、私がこの手で犯人を捕まえてやる。
思考は結局、そこに収束する。
となれば、後はやることはひとつだけ。
「私の大切な凛子に手を出したこと、死ぬまで後悔させてあげるわ」
決意を新たにして呟けば、なんとなく気持ちも落ち着いてくる。
そして気持ちが落ち着くと、なんだかお腹がすいてきた。
「そういえば、凛子が心配で昨日からなにも食べてなかったかも……」
一度それを意識してしまうと、空腹はだんだんと耐え難いものへと変わっていく。
「なぁ、もう限界……。なにか食べて帰りましょう」
そう考えて繁華街の方へと足を向けると、不意に少し離れた場所から私を呼ぶ声が聞こえてきた。
「あれ? 不知火さんじゃないですか。こんな所で会うなんて、奇遇ですね」
その呼び声に振り返ると、そこに居たのは管理局調査官の長谷川だった。
「いやぁ、この間の聴取ぶりですか? その節は、上司が大変失礼しました」
とてつもなくフレンドリーな態度で挨拶をしてくる彼に少し眉をひそめながらも、ここまで話しかけられて無視するのも大人げない。
「……どうも。あなたは、こんな時間まで仕事かしら?」
「いやぁ、本当に大変ですよ。例の事件のせいで仕事は山積みだし、上司はあんな性格だからよそからの反発もすごくって。それでも今日は久しぶりに定時に帰れたんですよ。その帰りにたまたま不知火さんの姿をお見かけしたんで、思わず声をかけてしまいました」
「あぁ、そうなの。それはお疲れ様」
そっけなく答えて会話を終わらせようとしたけど、長谷川はそんな私の態度など気にした様子もなくさらに言葉を続ける。
「どうですか? これから一緒に食事でも。Sクラス探索者の方とお会いする機会なんてそうそうないですから、いろいろとお話させてもらいたいなぁ、なんて」
それどころか、そんな風に食事にまで誘ってくる始末だ。
どうにもなれなれしい態度が鼻につくけど、だけどこれはいい機会かもしれないと思い直す。
黒影を叩きのめすと決めた以上、まず必要なのは事件に対する情報だ。
あの
「いいわよ、付き合ってあげる。もちろん、あなたが奢ってくれるのよね?」
誘いに頷いた私に、なぜか長谷川は意外そうな表情を浮かべていた。