「さて、それではこれで聴取はいったん終わりとしよう。これ以上は、君の身体にも負担だろう」
あの後もいくつか質問を繰り返した遠峰は、そう言っておもむろに立ち上がった。
「では、私はこれで失礼する。……お前も、面会時間が終わるまでには帰れよ。間違っても、こっそり病室に泊まろうなんて考えるんじゃないぞ」
「はいはい、言われなくても分かってるわよ。いいからさっさと出ていきなさいよ」
シッシッと片手で払うように遠峰を追い払う仕草をすると、彼は小さくため息を吐きながら部屋を出ていった。
「さて、これで邪魔者はいなくなったわね」
「あはは……。邪魔者って、さすがに言いすぎじゃない?」
「そんなことないでしょ。あの男は、そんな程度で傷つくようなタマじゃないだろうし」
たぶんアレは、究極的に他人の評価など気にしないタイプの人間だ。
自分の目的を達成するためなら、他人からどう思われようが関係ないと思っているのだろう。
「そう言うところが、一番気に食わないのよね」
きっとこれは、同族嫌悪のようなものなのだろう。
私自身も同じ人間だからこそ、遠峰のような精神性の人間を見ているとなんだか落ち着かない気分になるのだ。
「まぁ、そんな話はどうでもいいのよ。それより、凛子はもう身体は大丈夫? どこか、変な感じがする場所はない?」
「うん、大丈夫だよ。穂花ちゃんのおかげで、すっかり元気いっぱい! 今すぐにでも退院できそうなくらい!」
「そう? それなら良かったわ」
他人の身体をあれほど大規模に修復したのは、実は今回が初めてだった。
我ながら完璧に修復できた自信はあるけど、それでも心配なものは心配だ。
もしも私の修復術のせいで変な後遺症が残ってしまっては、凛子のこれからの一生を台無しにしてしまう可能性だってある。
「違和感があったらすぐに言うのよ。どうにかできることなら全力で直してあげるし、それでも無理な時は私が一生かけてお世話してあげる」
「ふふっ、穂花ちゃんに一生お世話してもらうのも楽しそうだね。でも、本当に大丈夫だから」
そう言って笑う凛子は、無理をしているようには見えない。
どうやら本当に大丈夫なのだと安心した私は、ホッと胸を撫でおろすと病室に備え付けられた時計へと一瞬だけ視線を向けた。
「……もうこんな時間なのね。遠峰に言われたからじゃないけど、私もそろそろ帰るわ。本当はもっと一緒にいてあげたいけど、迷惑になるものね」
「うん、今日はありがとうね! 私、すぐに退院するから。だから元気になったら、また一から修行をお願いします!」
「ええ、任せておいて。今度こそあんな奴に負けないように、しっかりと鍛えてあげるから覚悟しておきなさい!」
そう言ってふたりで顔を見合わせて笑うと、手を振る凛子に微笑みを返しながら病室を後にする。
そのまま病院の廊下を歩きながら、私は心の底から溢れ出してくる怒りを必死に抑え込むのだった。