「さて、それじゃあお説教の時間ね」
一通り再開と凛子の無事を喜んだ後、厳しい口調で放たれた私の宣言に凛子は表情を固くする。
「いやぁ、お説教はちょっと……。ほら、私ってさっきまで死にかけてたわけだし……。今度にしてもらうことってできたりしないかなーって」
「ふふっ、駄目に決まってるでしょ。ちゃんと問題を起こしたタイミングで怒らないと、ちゃんと身につかないでしょ?」
「そんな、犬とか猫のしつけみたいに……」
なにやらモゴモゴと呟きながらなんとか説教を回避しようとする凛子だけど、そんなことで逃がすほど私は優しくない。
やがて観念したように黙り込んだ凛子に厳しい視線を向けながら、私は改めて口を開いた。
「そもそも、なんでひとりで無理なんかしたの? 勝てそうにない相手が現れたなら、すぐに逃げなさいって教えたでしょ?」
「それは、だって……。他にも人が居たし、配信だってしてたから。ファンを見捨てて逃げるなんて、そんなのできっこないよ」
「……まぁ、あなたはそうでしょうね。そう言うところが凛子の魅力でもあるから」
そこで一度言葉を切ると、その言葉に少し嬉しそうな表情を浮かべる凛子に厳しい視線を向ける。
「でも、それとこれとは話が別よ。どんなに周りから貶されようと、批判にさらされようと、生きてさえいれば最後はどうとでもなるの。死んでしまったら、それで終わりなのよ」
もちろん私だって、これが綺麗ごとであることなんて分かっている。
今の世の中、一度でも道を踏み外してしまえばそこから這い上がることは非常に難しい。
特に凛子みたいな真っ直ぐな子は、その挫折が人生を大きく変えてしまうだろう。
「それでも全部を守りたいなら、どうすればいいか。凛子ならもう分かってるでしょ?」
私の問いかけに、彼女は小さく頷いて答える。
「うん、分かってる。助けたいなら、助けられるだけの力をつけなくちゃ」
「その通り。強くなれば、大抵のわがままは押し通せるわ。凛子は今回、明確に超えるべき壁を覚えた。だからまずは、その壁を越えることだけを考えなさい」
「……うん!」
力強く頷く凛子の瞳には、さっきまで失いかけていた強い意志の光が戻ってきていた。
どうやら、これでもう大丈夫みたいだ。
「はい、それじゃあお説教はこれで終わり! 色々と言ったけど、私は凛子のことを尊敬するわ。勝ち目がないと分かっていながら、他人を守るためによく立ち向かったわ。怖かったでしょう?」
そう言って彼女の頭を優しく撫でる。
最初はくすぐったそうにしていた凛子は、次第にうつむき加減になっていくとその瞳は涙で潤んでいった。
「えらい、えらい。よく頑張ったわね」
「うん……、うんっ……!」
やがて泣きじゃくり始めた凛子を、私はただ優しく抱きしめた。