遠峰に連れられてやって来たのは、病院のかなり奥に用意された特別な病室だった。
個室になっているその部屋の入口には制服を着た警察官がふたり、扉を挟むようにして左右に立っていた。
「お疲れ様です!」
そんな警察官たちに近寄ると、遠峰の姿に気づいた彼らは姿勢を正して敬礼してくる。
「お疲れ様。警護対象の様子はどうだ?」
「いまだに意識不明のままです。医師が言うには、このまま意識が戻らない可能性もあるとか……」
その言葉を聞いた瞬間、遠峰の後ろに立つ私の表情は歪む。
そんな私の姿を見て、警察官は不審そうな表情を浮かべる。
「あの、そちらのお嬢さんは……? ここは、関係者以外立ち入り禁止のはずですが」
「あぁ、彼女は大丈夫だ。少し試したいことがあって、俺の権限で連れてきた。責任は俺が取るから、彼女を病室に入れても?」
「……分かりました、どうぞ」
短いやり取りの後、私たちは警察官に促されながら病室へと足を踏み入れる。
「凛子……」
広い部屋の中に一台だけ置かれたベッドの上、そこに寝かされている凛子の姿を見て私は無意識に呟く。
呼吸器をつけられた凛子はまるで眠っているように目を閉じていて、ただ規則的に上下する胸が彼女が生きている証になっていた。
「全身の裂傷、特に腹部と左肩の傷は正面から背中まで貫通していたらしい。今は一応塞がっているらしいが、絶対安静の状態だ」
「……治癒スキルか、ポーションの使用は?」
「お前も知っているだろうが、治癒スキル持ちは貴重な存在だ。管理局として手配しているが、時間がかかる。ポーションに関しては、ここまでの傷では上級か特級の物を使わなければ効果はないらしい。こっちも貴重な上、非常に高価な代物のため用意するのは難しいのが現状だ」
「つまり、現状は様子見するしかないってわけね」
それも、私が居なければの話だけど。
「治療は可能なのか?」
「誰に向かってものを言ってるの? Sクラスの誇りにかけて、完璧に直してみせるわ」
自信満々にそう答えると、私はベッドで眠る凛子の傍まで歩み寄る。
「よく頑張ったわね。すぐに直してあげるから」
そう言って彼女の手を握ると、意識を集中させて修復スキルを発動する。
そうすると私の身体から溢れた淡い光が、凛子の身体を包み込んでいく。
同時に、頭の中には彼女の身体の直すべきところが思考として流れ込んでくる。
「こんなに傷だらけになって。全部、跡も残さず消してあげるね」
年頃の女の子の身体に、大きな傷跡が残っては大変だ。
少しの痕跡も残らないように、丁寧にひとつずつ傷ついた箇所を元通りに直していく。
そんな作業が、どれほど続いただろうか。
やがて全ての傷を直し終えて、私はゆっくりと息を吐きながら脱力した。