凛子が大怪我をして病院に緊急搬送された。
私がその知らせを受けたのは、ちょうどイレギュラーの調査を終えて地上に戻ってきた時だった。
慌てて取るものもとりあえず飛行機へと飛び乗り、帰ってきた時にはすでに真夜中だった。
さすがにこんな時間に病院へ押しかけるわけにもいかず、一度自宅へ戻って時間を潰した私は朝一で凛子の運び込まれた病院へと駆け込んだ。
やっと凛子の顔が見られる。
そう考えていた私だったけど、しかし現実はそう上手くはいかない。
「申し訳ありません。園崎さんは面会謝絶となっておりまして……」
彼女の病室を尋ねる私に、看護師さんは申し訳なさそうな表情を浮かべながらそう答える。
「面会謝絶……。あの、凛子の容体はそんなに悪いんですか?」
「それもお答えできないことになっております。すみませんが、お引き取り願えますか?」
取り付く島もないとは、まさにこのことだろう。
それだけ言い残して去っていく看護師さんの後姿を眺めながら、私はひとり思考を巡らせていた。
「どうにかして、あの子に会う方法はないかしら。修復術さえ使えれば、傷ひとつない状態にまで直してあげられるのに……」
だけどそれも、彼女と会うことができなければ叶わない。
「こうなったら、病院中を探し回ってでも凛子を見つけるしかないわね」
多少迷惑を掛けてしまうかもしれないけど、背に腹は代えられない。
そう考えて動き出そうとした時、それを引き留めるように低い声が私を呼び止めた。
「止めておけ。園崎凛子は現在、管理局によって厳重に警護されている。いくらSランク探索者でも、なんの騒ぎも起こさずに彼女と接触するのは不可能だ」
聞き覚えのある不愉快な声に振り返ると、そこには
「またあなたなの? もしかして、私の邪魔をするのが趣味なのかしら?」
「悪いが、そんな悪趣味なことをするほど暇ではないんだ。これはただ、面倒なことが起こる前に忠告しただけだからな」
あいかわらずの仏頂面な遠峰は、そのまま私を追い越すとその場で一度立ち止まる。
「ついてこい。園崎凛子の病室まで案内しよう」
「……なにが目的? まさか、ただの親切心でそんなことするような人間じゃないでしょ?」
「えらく嫌われたものだな。まぁ、確かに親切心だけでの行動ではないが」
そこで言葉を切った遠峰は、口角だけを微かに上げた表情で振り返る。
「お前のスキルを使えば、園崎凛子が目覚めるまでの時間は大幅に短縮できるだろう。そうすれば、事情聴取までのロスタイムも短くなる。つまりこれは、お互いにWin-Winの取引ということだ」
「なるほどね。……いいわ、乗ってあげる。私だって、無駄に騒ぎを起こしたいわけじゃないから」
遠峰が私を利用するように、私も彼を利用してやろう。
一秒でも早く凛子と会うための私の決断に、遠峰は初めて表情を緩ませて笑った。