「どう? 少しは効いたでしょ?」
ズルズルと滑るように地面に落ちていく人影に向かって、私は無理やり笑みを浮かべる。
油断すれば飛んでしまいそうな意識をなんとか繋ぎ止め、倒れそうな身体をかろうじて支える。
やがてゆらりと立ち上がった人影は、その空虚な瞳に確かな殺気を宿して私を見つめた。
「ふふっ……、やっと私を
それはまさしく、私が人影から
それがなんだか少しだけ楽しくて、少しだけ元気が出る。
だんだんと狭く暗くなっていく視界を凝らして人影を見つめ、もはや残りカスしか残っていない魔力をかき集める。
ドクドクと流れ出し続ける血液のせいで冷えていく身体を無視して、ただ前だけを見て次の攻撃へと備える。
この命を燃やし尽くしてでも、せめてもう一発決めてやる。
そんな私の決意とは裏腹に、今までとは違い大きく身体を揺らした人影はそれ以上動かない。
「コロス。ツギハ、コロシテヤル……」
そうして人影から発せられたのは、怨嗟の籠った低い声。
聞いただけで背筋が凍ってしまいそうな声に思わず怯んだ私を見て、人影は口元を歪ませてニヤリと笑う。
その笑みだけを残して人影は溶けるように暗闇へと消え、後に残るのは静寂だけ。
遅れて戦いが終わったのだと理解した私は、倒れるようにその場へ崩れ落ちた。
「はぁ……、疲れたぁ……」
もう指一本動かせない。
助かったのだという安心のせいで張り詰めていた気持ちの糸が切れ、なんだか急激に眠気が襲ってくる。
もはや痛みどころか感覚すら無くなりつつある身体で、流れ出て地面を濡らす血の感触だけがやけにリアルだ。
「これ、マズいよねぇ……。私、このまま死んじゃうのかなぁ……」
ゆっくりと歩み寄ってくる死の感覚に抗うこともできず、ゆっくりと閉じていく瞼に身を任せてしまいたくなる。
”リンリンちゃん! もうちょっと頑張って!”
”救助隊が今向かってるはずだから! 死なないで!”
”寝ちゃダメだ! 寝たらマジで死ぬぞ!”
「あはは……、大丈夫だよ……。私が、こんなところで死ぬわけないじゃん……。ちょっとだけ、ちょっとだけ休むだけだから……、ね」
もう霞んでしまって見えないコメントに掠れる声で答えながら、私はそのままゆっくりと瞼を閉じる。
急速に遠ざかっていく意識の中で、最後に私の頭に浮かんだのは
────
目を覚ますと、そこは見知らぬ天井だった。
白く清潔感のある部屋に、独特の消毒液みたいな匂い。
どうやら私は、病院のベッドの上に寝かされていたみたいだ。
「あぁ……。私、生きてるんだ……」
「ええ、生きてるわよ。やっと目覚めたわね、お寝坊さん」
私の呟きに答えるように聞こえてきたのは、聞きなれた大好きな声。
その声の方へと視線を向けると、そこには怒ったような表情で笑う穂花ちゃんの姿があった。