まるで挑発するようにゆらゆらとその場で揺れる人影に、私は油断なく武器を構えて向かい合う。
どうにかして、倒れている三人を助けながらこの場を切り抜けなければならない。
そんな無理難題を達成するために思考を巡らせていると、今度は私よりも先に人影が動き出した。
地面を滑るように急接近してきた人影は、両腕を剣のように変化させるとその刃を私へ向けて振るう。
「くっ!?」
反射的にその刃を剣で受け止めると、人影の身体から棘が伸びる。
「なにそれっ!? なんでもありじゃんっ!」
抗議の叫びを上げながらバックステップで距離を取りつつ、魔法で生み出した炎で棘を焼き払う。
同時に人影の周囲に展開させたいくつもの氷の槍を放つと、人影は両腕の刃を振り回すようにしてその全てを叩き落とした。
「わけ分かんない攻撃してくるくせに普通に強いなんて、ズルじゃんね。やってられないよ」
無理やり軽口を叩いて心を奮い立たせる私。
そうでもしないと、すぐに心が折れてしまいそうだ。
そのまま再び接近してきた人影の攻撃を受け止め、避け、そして魔法で反撃する。
そんなぶつかり合いを何度も繰り返すたびに、受け止めきれなかった人影の攻撃によって私の身体に傷が増えていく。
どれくらい、そうやって戦い続けていただろう。
向かい合う私たちの姿は、分かりやすいほど対照的だった。
全身くまなく傷だらけになり、肩で息をしながら血を流している私。
そんな私に対して、人影には目立った傷はひとつもない。
私の魔法は何度も直撃しているはずなのに、そのどれもが大したダメージを与えられていなかった。
”やばい、やばい……。このままじゃリンリンちゃんが死んじゃう……”
”誰でもいいからっ! 誰か助けて!”
”もういいから、ともかく逃げてくれっ!”
視界の端に私を心配するようなコメントが映り、私は無意識に口角を持ち上げる。
そうだ、私には視聴者がついている。
彼らをガッカリさせないためにも、こんなところでなにもできず無様に負けるわけにはいかない。
「負けるにしても、せめて一矢報いるくらいはしないとね」
ふぅっ、と息を吐き、身体の中を流れる魔力に意識を向ける。
その間にも再び人影は接近してきているけど、そんなのはもう関係ない。
振り上げられた両腕の刃を避けることも考えず、私はただ魔力を高めることだけに意識を集中させる。
「ぐっ、うぅ……!」
振るわれた刃が私の身体を貫くけど、そんなもの知ったことか。
両足に力を込めて倒れないように全身を支えると、私は剣の刃をそっと人影へと向けた。
瞬間、噴き上がるように私から溢れた魔力に人影が反応するけど、もう遅い。
その魔力全てをミスリルの刃に通しながら、私はまっすぐ敵を見つめて魔法を唱えた。
「吹っ飛べ、バースト・ノヴァ」
それは、今の私が生み出せる最大火力。
全ての魔力をただ一点に集中させた魔法は、剣の先端から人影を中心とした大爆発を起こす。
その爆発によって地面を跳ねるように吹き飛んだ人影は、やがて壁にめり込むように衝突して止まる。