”なんだよ、あれ……。もしかして新種のモンスターとか?”
”まさか、またイレギュラーだったりして……”
”いあ、でもリンリンは知ってそうな雰囲気だぞ”
「みなさん、気を付けてください。あれはヤバい奴です」
「どういうこと? リンリンちゃんは、あいつがなんなのか知ってるの?」
忠告の声に疑問を返してくる男性に、私は人影から視線を逸らすことなく頷く。
「はい……。たぶん最近起こってる、探索者襲撃事件の犯人です」
「んなっ!? マジかよ……」
驚きの表情とともに人影を見つめる三人に、私はさらに言葉を続ける。
「私は穂花ちゃんと一緒に、アレが実際に探索者を襲ってるところを見たことがあります。穂花ちゃんが言うには、相当強いみたいなんで気を付けてください」
”S級が相当強いっていう相手なのかよ”
”それって、かなりまずいんじゃ……”
”いくらリンリンちゃんが成長してるからって、さすがに分が悪すぎるだろ……”
コメントの言う通り、おそらく私ではあれに勝つことは難しい。
それでも立ち向かう意思を固めたのは、私の後ろに立つ三人のためだ。
これは自惚れじゃなく、この場にいる人間で一番強いのは私だ。
だから私は、後ろで臨戦態勢を整えようとしている三人を待たずに動き出した。
「貫け!」
声と同時に迸った魔力によって、人影の足元から生えた氷の棘が相手の身体をその場に縫いつける。
そのまま駆け出した私は、振り上げた剣を人影の肩へ向けて力いっぱい叩きつけた。
その瞬間、手に伝わってきたのはまるで風船を叩いたような手ごたえのなさ。
ゴムのような弾力をした相手の身体に刃はまったく通らず、ただその形を歪めるだけだった。
「くそっ、斬れない……!」
私の技量が拙いからか、そもそも斬撃が効かないのか。
それならばと追加の魔法を放つ直前、人影から無数の影の刃が伸びてくる。
背中から生えたその刃は回り込むようにして襲い掛かってきて、私は慌ててバックステップで距離を取る。
しかし影の刃は、まるで追尾するようにまっすぐ私へ向かって伸び続ける。
「燃えろっ!」
生み出した炎で刃を焼き払うと、私は再び最初に居た場所まで戻っていた。
「リンリンちゃんっ!?」
「俺たちも戦います!」
一連の攻防が落ち着いた時、私と入れ替わるように飛び出した三人がそのまま人影へと駆け出していく。
「ダメッ! 待って!!」
慌てて止めようとしたけど、もう遅かった。
それぞれの武器からの攻撃を避けることもなくその身で受けた人影は、しかしダメージを受けた素振りも見せずに佇む。
そのまま私の時と同じように伸びた影が、三人の身体をそれぞれ別の方向へと吹き飛ばしてしまった。
「ぐあぁっ!?」
「きゃあっ!!」
叫び声を上げながら壁に叩きつけられた三人は、そのまま地面に倒れて動かなくなる。
それを確認するようにグルリと周囲を見渡した人影は、ゆっくりと視線を私の方へと戻す。
その表情は、見えないはずなのになんだか笑っているようだった。