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第62話

 それからさらにダンジョンを進み続け、中層も残りわずかとなっていた。

「あとふたつフロアを降りたら、ボス部屋だね。ここまで来たのは初めてだから、なんだか緊張してきたかも……」

 なんて言いながらも、ここまでは予想以上に順調に進めている。

 普段だったらすでに枯渇し始めている魔力もまだ十分に残っているし、怪我だってほとんどない。

「それもこれも、やっぱり剣を使えるようになったのが大きいよね。魔力も節約できるし、近づかれても反撃するのにいちいち距離を取る必要もないし」

 今までは、自分の魔法に巻き込まれないために距離を取ってから反撃する必要があった。

 そのせいで攻撃を受けて怪我をすることがけっこうあったのだけど、今はその心配もほとんどない。

 その代わりに体力は倍くらい消耗するようになってしまったけど、それは今後の課題として取っておこう。

 魔力の量を鍛えるのに比べたら、スタミナをつける方が数倍簡単だ。

 そんなことを考えながらダンジョンを進んでいると、不意に正面の通路の先から複数人の話し声が聞こえてきた。

「もしかして、他の探索者さんたちのパーティかな? どうしよっか?」

 配信中に天童兄弟から絡まれて以降、実はちょっとだけ他の探索者さんたちに苦手意識を持ってしまっていた。

 普段なら穂花ちゃんが居てくれるから全然平気なんだけど、今日はソロだしちょっと不安だ。

 このまま進めばおそらく鉢合わせてしまうし、少しタイミングをずらしてしまおうか。

 なんてことを考えている間にも声は少しずつ近づいてきて、そして通路の先から現れたのは男女三人組のパーティだった。

 男性ひとりに女性がふたりという組み合わせのパーティのうち、ひとりの女性が私の顔を見るなりびっくりした表情を浮かべる。

「あれ? もしかして、リンリンちゃんですかっ!?」

「えっと、そうですけど……」

「わぁっ! 本物だぁっ!! 私、リンリンちゃんの大ファンなんです!!」

 感極まった様子の女性が歓声を上げると、残りのふたりも嬉しそうに表情を緩める。

「私も、この子に勧められてリンリンちゃんの配信よく見ます。お会いできて嬉しいです」

「俺もこの間から見始めて、頑張ってる姿に勇気をもらってます。……その、今日って穂花ちゃんは?」

「ごめんね。今日は穂花ちゃん居ないんだ。お仕事で出張に行っちゃったから、その間にソロで修行

 中なの」

「そう、なんですね……。くそぉ、生でリンホノてぇてぇが見られるチャンスだったのに……」

 なんだかめちゃめちゃ悔しそうにしている男性と、そんな彼を呆れた目で眺めるふたりの女性。

「コイツのことは気にしないでください。ただのカプ厨なんで」

「かぷ……? なんだか分かんないけど、触れない方がいい感じかな?」

 ともかく、どうやら三人とも私の視聴者さんで間違いないらしい。

 偶然の嬉しい出会いに、さっきまで私の頭をかすめていた不安は一瞬で吹き飛んでいた。


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