「よっ! ほっ! はぁっ!!」
小さな掛け声を上げながら相対するモンスターに向かって跳び、走り、剣を振るう。
その合間に魔力を迸らせて魔法を発動させれば、完全に意識の外から現れた不意打ちに反応することもできずモンスターは霧となって消える。
そんな戦闘を何度も繰り返しながら、私はダンジョンを奥へ向かって進み続けていた。
”ヤバすぎ……。どう考えてもD級の実力じゃないって……”
”ちょっと前までこんなに強くなかったよね? もしかして、穂花ちゃんってめちゃめちゃ人を育てる才能あるんじゃない?”
”穂花ちゃんの指導も良かったんだと思うけど、一番はやっぱりリンリンちゃんの才能でしょ”
”というか、さっきから詠唱なしで魔法使ってる気がするんだけど……”
「あぁ、詠唱ね。なんだかいちいち叫ぶのが面倒だなって思って、さっき試したらできたんだよね」
”えぇ……”
”詠唱破棄って、ちょっと試したらできるもんなんだ(遠い目)”
”いや、普通はできないからね”
”もしかして穂花ちゃん、とんでもない化け物を生み出しちゃったんじゃない……?”
「いやいや、私なんてまだまだだから! こんなに可愛い女の子を捕まえて化け物なんて、みんな酷いよっ!」
コメントの反応に納得いかない私は、カメラに向かって頬を膨らませながら抗議する。
「できないできないって思い込んでるから、できなくなっちゃうんだよ! どんなことだって、やる前から諦めずにまずは試してみたら、意外と簡単にできちゃうんだから!」
”それは、そうなのか?”
”そこまでまっすぐに言い切られると、なんだかそんな気がしてくる不思議”
”騙されるなっ! 画面に映ってるのは訳の分からん処理能力した脳みそ持ってるやべぇ奴だぞ!”
「なんだかさっきから、どうしても私のことを化け物にしたい子たちがいるなぁ? あんまり酷いと、BANしちゃうぞっ」
冗談交じりに脅しの言葉を告げると、コメントの中では恐怖に慄く声が多数見受けられた。
思ったよりも多いそのコメントたちに思わずため息を吐きながら、私は改めてカメラへと視線を向ける。
「あのねぇ……。もう一度言っておくけど、私なんかの実力じゃ化け物たちの足元にも及ばないよ。それは、みんなだって分かってるでしょ?」
今の私では、逆立ちしたって穂花ちゃんには勝つことなんて到底できない。
それどころか、きっと彼女は指先ひとつで私のことを打ちのめしてしまうだろう。
それくらい、私と彼女の間には越えなければならない壁が幾重にもそびえたっているのだ。
だからこそ、面白い。
「いつかその壁を全部ぶっ壊して、穂花ちゃんと並んで歩きたい。そのためには、立ち止まってる場合じゃないの」
私の心の底からの言葉に、さっきまで騒がしかったコメントはシンっと静まり返る。
その光景にちょっとやりすぎたかもと反省して、私は満面の笑みを浮かべながら努めて明るい声を上げる。
「さぁ、休憩終わりっ! ここから後半戦だけど、油断せずに頑張るよー!」
拳を突き上げて気合いを入れ直し、私は再びダンジョンの奥へ向けて歩を進めていった。