人気のない深夜の繁華街。
その路地裏の闇からにじみ出るように、ひとつの人影が現れた。
全身に影を纏ったような姿をした真っ黒なその人型は、しばらくフラフラと路地を歩いた後でふとその場に立ち止まる。
静止とともにゆっくりと身体を包んでいた黒い影がほどけていくと、そこからは一人の男性が姿を現した。
「ははっ、やっぱりすげぇ力だぜ。この能力があれば、俺はだれにも負けねぇ」
まるで熱に浮かされるように、興奮した様子で笑みを浮かべる男。
その表情は狂気に満ちていて、一目で彼が正気ではないことがよく分かる。
そうやってひとり狂気の笑みを浮かべる男の前に、さらにさっきまでの彼と同じような黒い影に包まれた人型が現れた。
「おう、兄弟。そっちの首尾はどうだ? 今日は
まるで待ち合わせをしていたような気軽さで、人型に話しかける男。
しかし相手からの返事がないことに、不思議そうな表情を浮かべて首を傾げる。
「どうした? なんかあったのか?」
心配そうに声を掛ける男の前で身を包んだ影がほどけると、中から現れた男はわき腹を押さえてその場にうずくまった。
「ぐっ、うぅ……。さすがに痛いぜ……」
顔をしかめ脂汗を浮かべた男は、絞り出すように小さく呟く。
しかし、それも数秒のこと。
すぐに立ち上がった男は、さっきまでとは正反対に口角を吊り上げて笑う。
「だけど、それだけだ。あんな攻撃を喰らって、痛いだけで済んだんだぜ。これからまだまだ探索者を食って力をつければ、あの女だってもう敵じゃない。ボコボコにして目の前に跪かせてから、時間を掛けてゆっくり食い散らかしてやる」
彼のそんな呟きの内容を理解したのかは分からないが、目の前の男の笑みにつられるようにもうひとりの男も笑う。
「そうだな、兄弟。これからもっと食って力を手に入れて、そんで最後は俺たちをコケにした奴らに復讐だ。そのために、お互い美味くやっていこうぜ」
「分かってるさ、兄弟。あいつらに復讐するために、食って食って食いまくろうぜ」
もはや支離滅裂な会話を繰り返しながら、まるで共鳴するように笑い声を漏らす彼ら。
そんな不気味な笑い声を残したまま、男たちは再び真っ黒い影を纏うと夜の闇に紛れるようにして消えていった。
同時に笑い声も少しずつ小さくなり、やがて路地裏は最初の静けさを取り戻していく。
そうして誰も居なくなったはずの路地裏に、コツッコツッと微かな足音が響いた。
「ふふっ、どうやら順調に育っていってるみたいだね。重畳、重畳」
貼り付けたような笑みを浮かべた人影は、まるでなにかを慈しむように両手を広げる。
「さぁ、これからが本番だ。どんどん育って、そして全て壊して消してしまおう」
そんな言葉だけを残して、人影はまるで最初から居なかったように忽然と姿を消した。