小春さんへの連絡によって駆けつけた救助隊とともにダンジョンを出た私たちは、いまだ意識の戻らないふたりと別れて別室へと通された。
簡易的なソファと机しかない小部屋で待っていると、そこに現れたのは高級そうなスーツを着こなしたふたりの男性だった。
「Sランク探索者の不知火穂花さん、Dランク探索者の園崎凛子さんですね? 我々は迷宮管理局、特別捜査課の者です。お時間をいただいて申し訳ないですが、少々お話を伺わせていただいてもよろしいでしょうか」
ふたりのうち、物腰の柔らかい男性が私たちに向かってそう話しかけてくる。
その間にももうひとりの眼鏡を掛けた上司らしき男性は、無遠慮に私たちの正面へと座るとこちらを睨みつけてきた。
「単刀直入に聞こう。犯人に心当たりは?」
そのあまりに不躾な態度に、私は思わず眉をひそめてしまう。
「人を引き留めておいて、自己紹介もしないのね」
「それは失礼した。管理局特別捜査課の遠峰だ」
「同じく、特別捜査課の長谷川です。よろしくお願いします」
そう言って差し出された名刺を一瞥していると、遠峰と名乗った男性がもう一度口を開いた。
「それで、犯人に心当たりは? お前たちは、犯人らしき人物と接触したのだろう?」
「心当たりって言われても、相手は真っ黒いなにかに包まれていて顔も見えなかったから。それに、接触したって言ってもたった数分よ」
たったそれだけでは、なにも分かるはずがない。
そう正直に伝えると、遠峰は分かりやすく落胆の表情とともにため息を吐いた。
「はぁ……。Sランクと言っても、所詮は素人娘か。当てが外れたな」
「ちょっと、遠峰さん……。そんな言い方は失礼ですよ」
慌てたように長谷川が口を挟むも、遠峰はそんな部下の様子など気にした様子もなくさらに言葉を続ける。
「そもそも、どうしてお前たちはあんな場所に居た? 被害者との面識は? あの時間に犯行が行われることを知っていたのか?」
「ちょっ、ちょっと! いきなりそんなに質問されても答えられないって!」
しかもなんだ、最後の質問は。
それではまるで、私たちのことを疑っているみたいじゃないか。
「みたいではなく、我々はお前たちの事件への関与を疑っている。犯行現場には被害者とお前たち以外の人物の痕跡はなく、被害者の意識はいまだ戻らない。黒い人影の証言にしても、お前たちふたりがそう主張しているだけだ。口裏を合わせれば、いくらでもでっちあげることは可能だろう?」
「……あまりにも失礼すぎる物言いじゃないかしら? そもそも、どうして私たちが赤の他人を襲わないといけないわけ?」
「理由などたかが知れている。聞けばお前たちはネット配信なんてものをやっているそうじゃないか。事件に巻き込まれたなんてことになれば、さぞ承認欲求は満たされるだろうな」
遠峰のその言葉に、私たちの間の空気がピンっと張り詰める。
まるで部屋中の温度が下がったような寒気のする沈黙に、ただ長谷川だけが居心地の悪そうな表情を浮かべていた。