「こっちは終わったわ。そっちのふたりの様子はどう?」
「あっ、穂花ちゃん……。ふたりとも、まだ息はあるけど……」
私の声掛けに振り返った凛子は、そう言って表情を暗くする。
彼女の肩越しに覗き込むと、確かに酷い有様だった。
ふたりとも執拗に痛めつけられたのか、全身に数えきれないほどの傷が刻まれていた。
女性の方はそのせいで骨が折れてしまったのか、本来であれば曲がってはいけない方向に足が曲がってしまっている。
見ているだけで痛々しいけど、それよりも男性はさらに酷い状態だった。
「たぶん、女性を庇って最後まで抵抗したんでしょうね」
男性の装備している鎧や盾はいたるところがボコボコに凹んでいて、もはや綺麗な場所を探す方が難しい。
そしてなにより、彼の右腕は肩から先がまるで引き千切られるようにして失われてしまっていた。
「ねぇ、穂花ちゃん。なんとかならないかな……?」
「……無理ね。ここまでグチャグチャに引き千切られてる状態じゃ、修復で新しく腕を造ることはできない」
凛子の言わんとすることは分かるけど、修復術だって決して万能ではない。
全てを把握している自分の身体ならまだしも、見知らぬ他人の身体を完璧に修復することは不可能だ。
「せめて千切れた腕の先があればなんとかなるかもしれないけど、それも見当たらないし……」
ダンジョンでは、あらゆる物が時間とともに消えていく。
それは人の身体も例外ではなく、ダンジョンで死んだ探索者の死体や欠損した人体の一部などは、時間とともにモンスターと同じように霧となって消えてしまうのだ。
「ともかく、最低限の治療はしましょう。女性の方はともかく、男性のほうはこのままじゃ危険だわ」
私が戦っている間に凛子が応急処置をしてくれたおかげでなんとか出血は止まっているけど、いまだ危険な状況には変わりない。
よく観察しながら修復術を掛けていくと、彼の身体はまるで逆再生のように綺麗な状態へと戻っていく。
それでも右腕は依然として失われたままで、ただ傷だけが綺麗に塞がっただけで終わった。
「修復じゃこれが精いっぱいね。右腕の方は、残念だけど諦めてもらうしかないわ」
とりあえず危険な状態から抜け出した男性を凛子に任せ、今度は女性の方へと向き直る。
「こっちの彼女は、なんとかなりそうね。……痛いだろうけど、我慢してね」
欠損がなければどうにかなるけど、その前にまずは折れた骨をどうにかしないと。
変な方向に曲がってしまった足を掴んで力を込めると、そのまま足を正常な状態へと力任せに戻していく。
「あああぁぁあぁっ!!」
「もうちょっと我慢して。あと少しで終わるから」
あまりの痛みに絶叫する彼女に申し訳なく思いながら、その身体に修復術を施していく。
そうすれば折れていた骨もぴったりとくっつき、傷だらけだった身体も綺麗な状態へと修復された。
「よし、ここでできる治療はここまでね。後は救助を要請して、そっちに任せちゃいましょう」
そう言ってスマホを取り出した私は、慣れた手つきで小春さんに電話を掛けた。