「それじゃ、今日の配信はこれで終わりまーす! みんな、おつりんりーん!!」
あれからもしばらく戦いを続けた後、凛子の疲れも見えてきたので今日の配信はこれまでとなった。
締めの挨拶をしてカメラを止めると、凛子は疲れを隠すことなくその場にしゃがみこんだ。
「はぁーっ! つっかれたあぁっ!!」
「お疲れ様。今日はよく頑張ったわね」
もはや座り込む勢いの凛子に労いの言葉を掛けると、顔を上げた彼女はそのままの体勢でにっこり笑う。
「うん、穂花ちゃんもお疲れ様。今日もありがとうね」
そのまましばらく座り込んでいた凛子だったけど、やがてゆっくりと立ち上がると大きく伸びをしながら口を開いた。
「うーん! それにしても、我ながら良い感じに戦えるようになったんじゃない? これで、最強にまた一歩近づいちゃったかも?」
「それはどうかしら? まだまだ動きに無駄は多いし、改善するべきところはたくさんあるんだから」
「あはは……、やっぱりそうだよねぇ……」
すぐに調子に乗り始める凛子に釘をさすと、曖昧に笑った彼女はあからさまに話を逸らす。
「そ、そんなことより! 初めて使ったんだけど、ミスリルって凄いんだね! 前にちょっとだけ使ったことのある杖よりも、魔力の通りが良かった気がするよ!」
「……むしろ私は、ミスリルよりも魔力の通りが悪い杖の方が気になるんだけど」
いったい、どんな粗悪品を使っていたのだろうか。
そんな私の心配など気にすることもなく、凛子はニコニコと笑顔を浮かべたまま話を続ける。
「普通の鉄とかと違って、ミスリルはなんだかヌルって感じで魔力が染み込んでいくの。変に力を込めてグッと押し込まなくても、スルスルって入っていくし」
「ごめん、ちょっとなに言ってるか分からないわ」
擬音が多すぎて話が入ってこないし、そもそも魔法なんて一切使えない私では共感することもできない。
「ともかく、凛子が気に入ったのならそれでいいわ。なぜか剣と魔法の同時使用も一発で出来てたみたいだし」
「さっきも言ったけど、それってそんなに難しいの?」
「私が前に知り合いから聞いた話じゃ、右手と左手で別の文章を書きながら雑談するくらい難しいらしいわよ」
この例えも独特すぎて分かりづらいけど、つまり訓練をしていない普通の人間ではまず不可能ということだ。
これでどれだけ難しいか伝わるかと思ったけど、どうやら私の考えが甘かったらしい。
「えっと……。私、学校で時々やってるかも。宿題を忘れて友達に写させてもらう時とかに……」
「あっ、そう……」
どうやら凛子は、普段から特殊な訓練をしていたみたいだ。
「とりあえず、宿題は忘れないようにしなくちゃダメよ……」
もはやなにを言う気も失せてしまった私は、絞り出すようになんとかそれだけ言葉にする。
なんとも言えない気まずい空気が流れ、自然とふたりとも口を閉ざす。
「うああぁぁぁぁあぁぁっ!!」
そんなふたりの間の雰囲気を切り裂くように、遠くからいきなり誰かの悲鳴が聞こえてきた。