あの後、気合いを入れなおした凛子はさらに数回モンスターとの戦闘を繰り返した。
その姿には最初の一戦の時のような緊張も油断もなく、なんなら戦闘が終わった後でも周囲を警戒する仕草さえ見受けられるようになっていた。
そんな彼女の様子を見て、私はひとり満足げに頷くと口を開く。
「うん、いいわね。最初に比べれば、見違えるほど良くなってる。これなら、次のステップに進んでも問題なさそうだわ」
「えへへ、ありがとう。でも、次のステップって?」
褒められて嬉しそうにはにかむ凛子は、しかし私の言葉に小さく首を傾げる。
「これまでは剣の基礎を身に着けるために禁止していたけど、これからの戦いでは剣と同時に魔法も使って戦ってもらうわ。両方をうまく使って戦うことができるようになれば、それだけ戦略の幅も広がるはずよ」
そもそも、彼女が剣を使うのはあくまで魔法での戦闘の補助のためだ。
そのために、彼女の剣の刀身には魔力の通りが良いミスリルが混ぜ込んであるのだ。
剣を扱いながら魔法を十全に発動できて、初めて彼女の新しい戦闘スタイルは完成したと言えるだろう。
「というわけで、まずは試してみましょう。最初と同じ相手だけど、きちんと魔法が使えれば簡単に倒せるはずよ」
通路の先から現れた三匹のコボルトを指差しながらそう告げると、凛子は表情を引き締めながら頷く。
「……分かった、やってみるね。今度は絶対、穂花ちゃんに褒めてもらうんだから」
気合十分、相手がまだこちらに気付く前に駆け出した凛子は一瞬でコボルトたちへ肉薄する。
そのまま一番手前のコボルトの腹に剣を突き立てると、その刀身からいきなり炎が噴き出してコボルトを焼き払う。
全身に炎が回りコボルトが燃え上がると同時に、凛子の存在に気付いた残りのコボルトが左右から次々に凛子へと襲い掛かってくる。
燃え上がるコボルトはまだ絶命しておらず、剣の刃はいまだその腹に刺さったまま。
前回と同じような状況に、しかし凛子の行動は冷静そのものだった。
「アースニードル!」
パッと剣から手を離した凛子がその場を飛びのくと同時に、さっきまで彼女の居た地面から隆起した岩の棘が二匹のコボルトを貫く。
そうして三匹が同時に霧となって消えたところで、凛子は少し驚いた表情を浮かべて呟く。
「あれ? もう終わっちゃった……?」
「当たり前でしょ。そもそも凛子なら魔法だけでも倒せるような相手だし、剣での戦い方にも慣れてきた頃だもの」
むしろ私としては、練習一発目ですぐに剣と魔法を同時に使い分けられる方が驚きだ。
「それはそんなに難しくなかったよ。動きながら魔法を使うのはちょっと大変かもだけど」
「普通の魔法使いは、それが一番難しいらしいわよ」
相変わらず変なところで規格外な才能を見せる凛子に、私は少し呆れたように呟くのだった。