「全然ダメね。これじゃ、及第点もあげられないわ」
笑顔を浮かべたまま厳しくそう伝えると、怒られる自覚はあったらしい凛子はビクッと身体を振るわせて黙り込む。
”そこまで言わなくても……”
”初めてなんだし、けっこう戦えてた方だと思うけど”
”ちょっと厳しすぎやしないですかね?”
「厳しいっていうけど、ここはダンジョンなのよ。訓練だから、危なくなっても助けてもらえるから、っていう一瞬の油断が、取り返しのつかない状況を呼び込むかもしれない場所なの。もしさっきのが訓練じゃなかったら、リンはもう死んでた」
”それは、そうなんですけど……”
”もっとこう、手心というものを……”
「私はリンの戦闘に対するセンスと武器の性能なら、たとえ初めてでもあれくらい切り抜けられると思っていたの。実際、一匹目はあっさりと倒せてたわけだし」
落ち込む凛子をかばうようなコメントたちにそう言い放つと、私は再び視線を彼女へと向ける。
「それなのに、その後のアレはなに? 嬉しいのは分かるけど、まだ戦闘中なのに集中を切らすなんてありえないくらい致命的なミスを犯すなんて。そのせいで、二匹目の接近を簡単に許してしまった」
淡々と駄目だったところを指摘していくたびに、凛子は小さく頷きながら真剣な表情で耳を傾けてくる。
「二匹目の攻撃を受け止めたところまでは良かったけど、その後がダメね。焦って攻撃したから剣筋がぶれて、背骨を断つことができずに途中で止まってしまった。あの場合なら、冷静になって相手と距離を取って仕切りなおした方が良かったわ」
「なるほど。確かにそうかも……」
「そして最後が一番ダメ。二匹目に集中しすぎて、三匹目のコボルトのことを完全に忘れてたでしょ」
そのせいで、あんな風に簡単に背後から奇襲されてしまったのだ。
そしてあの場面での奇襲は、ソロでの実戦であれば文字通り決死の一撃だった。
「剣が大切なのも分かるけど、それにこだわりすぎも良くないわ。あの状況なら、武器を手放して避ける選択肢も頭に用意しておくべきだわ」
剣はたとえ失ってしまっても代わりを用意することができるが、命はそうはいかない。
探索者が最も心がけないといけないのは『死なない』ことだと、少なくとも私はそう思っている。
”確かに、死んだらそれまでだもんな”
”それにしても、想像よりもボコボコに言われてて草も生えない”
”俺だったら、こんなに言われたら耐えられなくて泣いてる”
コメントには凛子を心配する声も上がっているけど、彼女の表情を見る限りその心配はないだろう。
表情こそ暗いものの、その瞳には未だにやる気の炎が燃え続けているのだから。
「と、まぁここまで悪いところをひとつずつ挙げていったわけで。ダメ出しはここまでにしましょう。厳しいことも言ったけど、最初の一撃は素晴らしかったと思うわ。どんな状況でもあれくらいの太刀筋で戦えれば、剣士としても十分やっていけるはずよ」
「ありがとう。でもやっぱりちょっと悔しいから、次はもっとうまくやれるように頑張るよ!」
決意を新たに気合いを入れなおす凛子に、私は今度こそ心から笑顔を浮かべて彼女に頷きを返した。