力強く頷いて剣を抜いた凛子と同時に、コボルトたちもこちらの存在に気付いたように警戒心を露わにする。
そうやって睨み合うこと、わずか数秒。
その均衡を破り先に動き出したのは、凛子の方だった。
「先手必勝っ!!」
抜き身の剣を振り上げながら一気に相手との距離を詰めた彼女は、そのまま一番近くに居たコボルトに向かって剣を振り下ろす。
その刃はまっすぐにコボルトへと向かうと、まるでバターを切るようにあっさりとその身体を両断する。
肩から袈裟懸けに真っ二つになったコボルトはおそらく実感も湧くことなく絶命すると、そのままその身体は霧となって消える。
「やった! まずは一匹!」
と、小さく歓声を上げた凛子に向かって、仲間の消えた霧を隠れ蓑にするように二匹目のコボルトが突っ込んでくる。
「わわっ!?」
油断しながらもコボルトの振り回した剣を受け止めると、その場でたたらを踏む凛子。
なおも突っ込んで来ようとするコボルトへ向かいタイミングを合わせて剣を横なぎに振るえば、その刃はコボルトの胴へと滑り込んでいく。
そのままさっきと同じようにその身体を両断すると思われた刃は、しかしなにかに引っ掛かるようにして途中でその動きが止まってしまう。
「くっ! このっ……!!」
そのことに焦った凛子が慌てて剣を押し込もうとするけど、はっきり言ってそれは悪手だ。
存在を消すように仲間たちの戦闘を見守っていたもう一匹のコボルトが、ゆっくりと凛子の背後へと近寄ってくる。
凛子がそのことに気づいた時にはすでにその距離は絶望的に近く、振り上げられた剣を避けることは不可能に近かった。
「やばっ!? 避けられない……!」
敗北を悟った凛子が絶望の表情を浮かべるのと同時に、勝利を確信したコボルトは好戦的な笑みを浮かべながら剣を振り下ろす。
その直前に、私の
「ギャッ!?」
寸分違わず顔面へと直撃したメイスによって、ぶれたコボルトの剣は凛子の真横で空を切る。
その隙にやっと剣を引き抜いた凛子は、そのままの勢いでコボルトへ向けて剣を突き立てた。
その刃はまっすぐコボルトの胸を貫き、さらにその身体を切り捨てていく。
それが致命傷となりコボルトの身体は霧となって消え、さらに身体を半分まで切り裂かれていたコボルトも一瞬遅れて絶命した。
「はぁ……、はぁ……。なんとか、勝てた……」
腕をだらんと下げて肩で息をしながら、凛子は苦しそうな表情を浮かべて呟く。
その姿はダンジョンに居るとは思えないほど隙だらけだけど、まぁ今は周りに敵も居ないし許してあげよう。
そんな彼女にそっと歩み寄った私は、満面の笑みを浮かべながらゆっくりと口を開いた。