「~~~~っ!! ぐやじいぃぃ!!」
勝負の決まった修練場で、凛子は今まで聞いたことがないくらい汚い声を上げて悔しがる。
「うぅ……。結局、穂花ちゃんに一発も当てられなかった……」
「まぁまぁ。私だって伊達にSランク探索者をやってるわけじゃないからね。これくらいの実力差なんて、あって当たり前だもの。そんなに落ち込む必要はないでしょ」
「それはそうなんだけど……。でもなぁ、目標はまだまだ遥か高みってことかぁ」
さっきの手合わせはけっこう容赦なくやってしまったから心配していたけど、どうやらその心配はなさそうだ。
彼女のやる気は下がるどころか、むしろ上がっているような気さえする。
「そう言うところが、凛子の魅力よね。やっぱり、やる気のある子は応援したくなっちゃうわ」
「……え? なにか言った?」
「いいえ、別になにも言ってないわよ。それより、凛子の腕前の確認は終わったの?」
小さく呟いた私の声は聞き取れなかったらしく、首を傾げながら聞き返してくる彼女をごまかすように私は店長さんへと話を振る。
「ん? あぁ……。まぁ、だいたい分かったぜ。とりあえず嬢ちゃんはあれだな、根本的に体力が足りねぇ」
「うっ……! それは、ごもっともです……」
自分でも気にしている痛いところを突かれたのか、凛子は苦い顔を浮かべながら胸を押さえた。
そんな彼女の様子に笑みを零しながら、店長さんはさらに言葉を続ける。
「とはいえ、それはこれから鍛えていきゃあ良いだけの話だ。それに、剣筋だって想像よりはかなり良い線いってたと俺は思うぜ」
「本当ですかっ!?」
「うん、確かにそうね。物怖じせずにガンガン攻めてくるし、思い切りが良いから成長にも期待できそうよ」
店長さんの言葉を肯定するように、私も頷きながら答える。
やっぱり、最初に凛子に武器の扱いを教えた奴は見る目がなかったみたいだ。
「えへへぇ……。嬉しいなぁ……」
自信のなかった武器の扱いで予想外に褒められたからか、凛子は照れた様子で両手で頬を押さえながら全身で喜びを表現するように悶える。
そんな彼女の姿を微笑ましく眺めている間にも、顎に手を当てて考え込んでいた店長さんは結論を出したようにひとり大きく頷いた。
「よし! 嬢ちゃんにぴったりな剣が決まったぞ!」
「へぇ、やっと決めたのね。それで、どんな剣を用意してくれるのかしら?」
「うわぁ、楽しみだなぁ!」
キラキラと目を輝かせる凛子に、店長さんはニカッと満面の笑みを浮かべて親指を立てる。
「任せとけって。だけど、ちょっと時間をくれるか? 店にある奴を調整して、嬢ちゃん専用に新しく打ち直さねぇといけないからな」
「もちろんですっ! 楽しみに待ってますね!」
自分専用という言葉にさらに瞳の輝きを強めた凛子は、さっきまでの疲れなど吹き飛んだようにその場で何度も飛び跳ねるのだった。