「最初に言っておくけど、本当に軽く打ち合うだけだからね。私だって、剣の扱いはあんまり得意じゃないんだから」
「もちろん、分かってるよ。そもそも、穂花ちゃんが本気を出したら私なんて一瞬でやられちゃうし」
剣を構えて向かい合いながら念を押すように声を掛けると、正面に立った凛子は小さく頷きながら答える。
私たちの準備が整ったのを確認した店長さんは、私と凛子の顔へ交互に視線を剥けながら口を開く。
「とりあえず、今回は嬢ちゃんがどれだけ動けるかのテストみたいなもんだ。嬢ちゃんは、遠慮なく相手に打ち込んでいけ。んで、お前はとりあえず受けに回ってやれよ」
「分かってるわよ。……ていうか、だったら別に相手は私じゃなくて店長さんでも良いんじゃない?」
「お前が連れてきた客なんだから、それくらいしてやれよ。それに、お前だって見てるだけじゃ退屈だろ?」
「そりゃあ、そうだけど……」
実際、さっきから少しだけ手持無沙汰ではあった。
最終的には凛子が自分で決めることだからと口出しはしないようにしていたから、退屈していたのだって本当のことだ。
「……はぁ、まぁここまで来たら腹をくくりましょう。さっ、どこからでも打ち込んできていいわよ」
「うん! それじゃあ、いきますっ!!」
気合十分の掛け声とともに、一気に距離を詰めた凛子は木剣を大きく振り上げる。
そのまま力いっぱい振り下ろされた木剣を受け止めると、その隙だらけの胴に向かって前蹴りを叩き込む、直前で思い留まる。
いけない、いけない。
これは凛子の動きを見るための手合わせなんだから、反撃は控えないと。
そう思い直して腕の力だけで彼女の木剣を押し返すと、弾かれるように一度距離を取った凛子は再び踏み込みながら木剣を振るう。
様々な角度から何度も打ち込まれる木剣を全て受け止め弾き返していると、やがて少しずつ凛子の動きは悪くなっていく。
「はぁっ……、はぁっ……」
「そろそろ終わりかな? 慣れない動きをしたせいか、かなり疲れちゃったみたいね」
肩で息をしながらも意地になって木剣を振り続けている凛子を観察しながら、私は冷静に声を掛ける。
「まだ、まだぁっ……! せめて一撃くらい、当ててみせるっ!」
体力の限界を気合いと根性でごまかしている様子の凛子だけど、その動きは完全に精彩を欠いている。
そんなたどたどしい攻撃が私に通用するはずもなく、振るわれた剣を強めに打ち返せばそれだけで凛子の手から木剣が離れてしまう。
「あっ……!?」
いきなり得物を失ってしまい小さく声を上げる凛子。
そんな一瞬の隙を見逃さず、私は彼女の首元にそっと木剣の刃を当てて微笑んだ。
「はい、これで終わりね」