剣を買うことに決めた私たちは、店長さんに連れられて店の裏にある広い修練場までやって来ていた。
「すごい……。お店の裏にこんな場所があるんだ……」
「まぁ、うちの店のこだわりだな。まずはここで動きを見て、そいつに見合った武器しか売らねぇってのが俺のポリシーってやつだ。半端な奴が実力に見合わないような武器を持ったところで、使いこなせなきゃ意味がねぇからな」
「だけどそのせいで、このお店ってお客さんが少ないのよね。いつも赤字ギリギリだって嘆いてるしね」
「うるせぇ。俺の武器を使いこなせないような探索者、こっちから願い下げだ。そもそも、この店は一言さんお断りだからな」
私の言葉に不機嫌を隠すこともなく答えた店長さんは、そのまま凛子に向き直ると近くに置いてあった木剣を手渡した。
「とりあえず、嬢ちゃんはこれを使って素振りしてみてくれ。振り方くらいは分かるよな?」
「はいっ! 分かります!」
木剣を受け取った凛子は、それを正面に構えると力強く素振りを始める。
まっすぐに振り上げてそのまま振り下ろすその様子は、まるで授業で習う剣道の素振りみたいだった。
何度も振り下ろされる木剣の動きをしばらく眺めていた店長さんだったけど、すぐに顔をしかめると首を大きく横に振った。
「駄目だな。まるでなってねぇ」
「えっと……、どこがいけなかったですか?」
いきなりの駄目出しに弱気な表情を浮かべた凛子が聞き返すと、店長さんは当然のことのように口を開く。
「普通にスポーツとしてやるなら、そんな感じで十分だ。鍛えようによっちゃ、けっこう良い所まで行けるかもしれねぇ。だけど、嬢ちゃんがやるのはそんなんじゃねぇだろ? 探索者が戦う相手はダンジョンのモンスターで、それはルール無用の命の取り合いだ」
その言葉を聞いて、店長さんの言いたいことが伝わったのか凛子は神妙な表情を浮かべて頷く。
そんな彼女の様子に頷きを返した店長さんは、さらに言葉を続ける。
「そもそも、嬢ちゃんは魔法使いなんだろ? だったら、剣はせめて片手で扱えるようにしなきゃ駄目だろ。両手を使ったせいでいざという時に魔法が使えないってんじゃ、本末転倒だ」
そこまで言った店長さんは、さっきとは違う形の木剣を凛子へと差し出す。
「ちゅう訳で、今度はこっちだ。さっきのより短くて軽いから、これなら片手でも扱いやすいはずだぜ」
「……ホントだ。これなら大丈夫そうです!」
試すように軽く木剣を振り回した凛子は、頷きながら笑みを浮かべる。
そのまま素振りを繰り返す凛子の表情は、なんだか少し楽しそうに見えた。
「よしよし、さっきまでよりも良い感じだな。それじゃ、次のステップだ」
そう言いながら私の方へ振り返った店長さんは、そのままさっきまで凛子が使っていた最初の木剣を手渡してきた。
「それ使って、軽く嬢ちゃんと打ち合ってみてくれ」
「えぇ……。なんで私がそんなことを……」
面倒だからと断ろうとした瞬間、目の前に居る凛子から強烈な期待に満ちた視線を向けられる。
そんな瞳に見つめられてしまっては、彼女に甘い私が拒否できるはずもないのだった。