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第42話

「どうやら、話は纏まったみてぇだな」

 私たちの話が終わるまで静かに見守っていてくれていた店長さんは、そう言いながら立ち上がってゆっくりと近づいてくる。

「んで、嬢ちゃんはどんな武器が使いたい? なにか希望とかはあるのか?」

「希望ですか? 例えば、メイスとかは……」

「メイスかぁ……。メイスはちょっとねぇ……」

 普段からそれを使って戦っている私が言うのもなんだけど、正直言ってあんまりオススメはしないかもしれない。

 店長さんも同じ考えだったようで、渋い表情を浮かべながら口を開いた。

「……そりゃ止めといたほうがいいだろうな。嬢ちゃんの細腕じゃ、振り回すどころか逆に振り回されるだろ。最悪、肩が外れるぞ」

 そんな店長さんの評価に、凛子はなんとも言えない表情を浮かべて無意識に肩を押さえる。

「肩が外れるのは嫌だなぁ……。でも、だったらどんな武器を使うのがいいんだろう……?」

 腕を組んで悩み始めた凛子の身体を、店長さんは無遠慮な視線で観察し始める。

「ちょっと、店長さん。セクハラは駄目ですよ」

「うるせぇ、そんな訳ねぇだろ。なにが悲しくて、娘くらいの年の子どもに欲情しなきゃならねぇんだよ」

 ちょっとからかうように冗談を言ってみると、めちゃくちゃ嫌そうな表情を浮かべながら言葉を返してくる店長さん。

 その間にも凛子に対する観察は止まらず、視線に気付いた凛子もなんだか気まずそうだ。

 そうやって数分間じっと凛子を観察した店長さんは、やがてひとりで納得したように頷くと改めて口を開いた。

「よし、なんとなく分かったぜ。たぶん嬢ちゃんは、細身の剣を使うほうがいいだろうな」

「へぇ。その心は?」

「嬢ちゃんの場合、あんまり筋肉がついてないから重たい武器は駄目だ。と言うわけで、まずはハンマーなんかの鈍器類は除外だな」

「ふんふん、なるほど……」

「次に槍なんかの長物だが、ああいうのはダンジョンなんかの狭い場所じゃあ取り回しが難しい。それに、硬い敵を貫くには意外と力が要るからな」

「でもそれって、剣だって同じなんじゃない?」

「まぁ、そうだろうな。それでも、俺は剣を使うほうがいいと思う。なんたって、探索者の中じゃ使用率が一番高い武器だからな。その分だけお手本も多いし、それに初心者の嬢ちゃんはまず基本を抑えといたほうがいい。まずは剣から始めて、自信がついたら他の武器に挑戦するってのでもいいだろうぜ。……と言っても、これはあくまで俺の意見だけどな」

 採用するかどうかはお前らに任せるぜ、と言って説明を切り上げる店長さん。

 だけど、素人の私たちが考えるよりも、ここは専門家である店長さんの意見に従うほうがいいだろう。

 そう考えたのは凛子も同じだったようで、私たちは顔を見合わせて小さく頷いた。

「じゃあ、剣にします! 私でも扱えるような剣って売ってますか?」

「おう、任せとけ。嬢ちゃんにピッタリな奴を用意してやるぜ!」

 しっかりとした表情でそう答えた凛子の言葉に、店長さんはそう言ってニカッと笑った。


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