「あら、客を待たせておいて一言目がそれなの? 随分とご挨拶ね」
「うるせぇな。来たんなら声を掛けろって、いつも言ってんだろ」
店の奥から聞こえてきた声に気安い口調で声を掛けると、現れた店長さんは仏頂面のまま答えた。
「それで、今日はいったいなんの用だ? もしかして、ついにこの店で働くつもりにでもなったか?」
「あははっ、そんなわけないでしょ。と言うか、貴重なSランク探索者を引き抜いたりなんてしたら、管理局から恨まれちゃうわよ?」
「あぁ? 別に構わんだろ。業界から干されたところで、俺の武具を必要としてる客は探索者の中にごまんと居るからな。困るのは、管理局の奴らだけだ。むしろ、その方が作業に集中できて清々するぜ」
ガハハッと笑いながら言い切った店長さんは、そのまま近くにあった椅子にドカッと座る。
「それで、結局なんの用なんだ? バイトの相談じゃねぇなら、なにか買いに来たんだろ? やっとお前さんも、身を守る防具を吐けるつもりにでもなったか?」
「いやいや、防具なんて私にとっては動きを阻害する重りにしかならないから。そんなの着るくらいなら、怪我してから直した方がよっぽど早いし。……あっ、だけどメイスはもう少し丈夫な奴が欲しいかも。今の奴は、すぐ折れちゃうから」
「今のメイスはこの間新調したばっかだろ。……お前さん、また力が強くなったのかよ。そろそろ、人間を名乗るのは止めたらどうだ?」
明らかに引いている様子の店長さんに、私は思わず頬を膨らませる。
「女の子に向かって、その態度は失礼じゃない? と言うか、私のことはどうでもいいの。今日はこの子の装備を買いに来たんだから」
このままではいつまで経っても話が進まない。
そう考えた私は、私と店長さんの会話を聞いてオロオロしていた凛子の背中を押して前に出す。
さっきまで私の背中に隠れるようにして様子を伺っていた凛子が視界に入ると、店長さんは無遠慮な視線で凛子を眺めながら口を開く。
「ん? 見たことねぇ娘だな。俺はこの店の店長の
「は、はいっ! 園崎凛子ですっ!」
そう言ってぺこりと頭を下げる凛子を見て、店長さんは感心したように顎を撫でる。
「へぇ、最近の若い奴にしちゃあ礼儀正しいじゃねぇか。誰かさんにも見習ってもらいてぇぜ」
「あら、誰かさんって誰のことかしら?」
「さぁて、誰のことだろうなぁ。……んで、嬢ちゃんの装備って言ってたが、具体的にはなにが要るんだ?」
あからさまに話を逸らした店長さんにため息を吐くと、私は改めて凛子と店長さんへ交互に視線を向けて口を開いた。
「それなんだけど、凛子はどんな武器が使いたい?」