駅前の広場からふたりで並んで歩くこと十数分。
少し入り組んだ路地の先に、そのお店は存在していた。
「着いた。ここが、今日の目的地のお店よ」
『みね屋』。
無骨な文字で大きくそう書かれた看板が掲げられたそこは、見た目だけでは何のお店だか分からない風貌をしていた。
「えっと……、ここってなんのお店なの?」
もちろんそれは初見の凛子も例外ではなく、彼女の頭の上にはクエスチョンマークが浮かんでいた。
「まぁ、そうなるわよね。ともかくまずは入りましょう。そうすれば、なんのお店かはすぐに分かるから」
百聞は一見に如かずだ。
口で説明するのも面倒だし、実際に見てもらった方が早いだろう。
勝手知ったる様子で私が入口をくぐっていくと、それを見た凛子も恐る恐る私の後をついてくる。
そうして中に入ると、凛子は目を丸くしながら店内を見渡した。
「……凄い。これって、全部武具なの……?」
店内には所狭しと多種多様な武器や防具がズラリと並べられていて、その全てが私たちの来店を静かに迎えてくれた。
「と言うことは、ここって武具屋さん? こんな所に、こんなお店があったなんて」
「まぁ、かなり立地がややこしいからね。基本的に誰かから紹介されないと、最初に来るのは苦労すると思うわ」
私も、まだ凛子と同じくらいのランクの探索者だった時に知り合いに連れてこられたのが最初だ。
彼曰く、「良い武具は一生物だ。どうせ買い替えるくらいなら、最初から一生使えるくらい最上の物を選べ」らしい。
正直言って今でもなにを言っているのかいまいち理解はできないけど、このお店の武具が最高級だということは分かる。
「と言うわけで、凛子はここで自分に合った武具を買いなさい。お金は、この間のジュエルリザードの売却でかなり余裕があるでしょ?」
あのイレギュラーで得た報酬とドロップアイテムの売却益は、すべてきっちり折半にしている。
凛子は最後まで受け取ることを渋っていたけど、そこは師匠権限でゴリ押しさせてもらった。
「確かにあるけど……。もしかして、折半したのはこのためだったの?」
「いや、あれはただ私のポリシーを押し付けただけ。パーティーを組んだからには、これからも得た報酬は全部折半するつもりだから。……まぁ、その考えもなかったわけじゃないけど」
良い武具を使えば、それだけ生存率が上がる。
探索者にとってはそれが一番大事だと、私はそう思っている。
「私は凛子に死んでほしくないから、装備はしっかり用意しておいて欲しいのよ。私と違って、あなたは大怪我したら大変なんだから」
「穂花ちゃん……」
私の言葉に感極まったように、少し瞳を潤ませた凛子が私の手を取る。
そのまましばらく見つめ合っていると、不意に店の奥からわざとらしい咳払いが聞こえてきた。
「んんっ……! 悪いが、冷やかし目的なら帰ってもらっていいか?」