「なにそれ、知らない。こわっ……」
「うぇっ!?」
やり切った表情で駆け寄ってきた凛子あったけど、突き放すような私の言葉を聞いて変な声を上げる。
”師匠ドン引きで草”
”いつ見ても意味分からんからな”
”俺らは見慣れたけど、やっぱりSランク探索者から見ても変なんだね”
”探索者エアプなんだけど、今のってそんなにヤバいの?”
「ひどいよぉっ! せっかく良い所を見せようと思って気合い入れてがんばったのにぃっ!」
「いや、まぁね。頑張ったんだなぁってのは分かってるんだけどね。だけど同時に、一般探索者としてこれは異常だってことを主張しないと駄目な気がするのよ」
”一般探索者(Sランク)”
”日本最高ランクの人が一般を名乗るのは無理があるんじゃないっすかね”
「コメントうるさいなぁ。今は私のことより、リンの異常性の話をしてるの」
「異常っ!? 私はただ、普通に魔法を使ってモンスターを倒しただけだよ!」
「それが普通じゃないって言ってるの。……あなた、さっきの戦闘でなんの魔法を使ったか言ってみなさい」
なんだかまだ納得していない表情を浮かべながらも、凛子はさっき使った魔法を指折り数え始める。
「えっと……、まずフレイムアローでしょ。それからウィンドカッターとストーンバレット、最後がアイスエッジだよ」
なんでもない風に答えていく凛子の様子に、私は思わずため息を吐く。
「あのねぇ……。普通の探索者は、そんなにいろんな属性の魔法をポンポン使ったりできないのよ」
「え? そうなの?」
「そうなの。普通なら使える属性は一つ。二つも使えればかなり才能に溢れてるわね」
そもそも私も含めて、探索者の中には魔法を使えない者だって多い。
そんな中で三つ以上の属性を使いこなす探索者は、私の知っている限りでも凛子以外だともう一人しか知らない。
「それで、あなたはいくつの属性が使えるの? どうせ、まだ隠してるんでしょ」
”見抜かれてて草”
”師匠めっちゃ詰めるやん”
”リンリンちゃん目が泳いでる”
”隠してもどうせバレるし、もう言っちゃえばいいじゃん”
”ちゃんと言わなきゃ修行にならないし、正直に言っちゃいな”
なんとかごまかそうとしているのがよく分かる表情の凛子に対して、視聴者たちもさっさと白状するように促している。
そんなコメントを見て逃げ場がないと諦めたのか、凛子は項垂れたまま小さい声を出す。
「……ななつ」
「はい……?」
思わず聞き返すと、吹っ切れたらしい凛子は再び指を折りながら属性を呟いていく。
「さっき使った火、風、土、氷の四つと、水、雷、それと光もちょっとだけ」
「……やばぁ」
素直にドン引きしていると、彼女は拗ねたように大声を上げる。
「やっぱり引かれたぁっ!! だから言いたくなかったのにぃっ!!」
その叫びの後ですっかり機嫌の悪くなってしまった凛子をなだめるのに、かなりの時間を浪費してしまうのだった。