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第16話

 そうと決まれば善は急げ。

 ということで、喫茶店を出た私たちはさっそく空ヶそらがさきダンジョンへとやって来ていた。

 学校の近くにある中でも一番大きく未踏破であることから、このあたりを拠点に活動している探索者の多くはこのダンジョンをホームにしている。

 かくいう私と凛子もここをメインに活動しているため、配信をするならまずはこのダンジョンだろうとすぐに決まった。

 凛子の着替えを待ってから受付で入場手続きとパーティ申請をした私たちは、そのまま準備運動がてら中層付近にまで進んでいく。

 受付をした時に受けたいつものお姉さんからの温かい視線の鬱憤を晴らすようにメイスで現れたモンスターの頭をカチ割っていると、その間に配信の準備を終えた凛子が声を掛けてくる。

「よし、カメラの準備はこれでオッケー! それじゃあ配信始めるけど、本当にその格好で大丈夫なの?」

 ダンジョンに吸い込まれるように消えていったモンスターの死体を確認して振り返ると、私は彼女に向かって小さく頷いた。

「ええ、問題ないわ。普段からこの格好でダンジョンに潜ってるし」

「でも……」

 それでも心配そうな彼女を安心させるように、私は柔らかく微笑みを返す。

 とはいえ、彼女が心配する気持ちも分かる。

 しっかりと探索者としての防具を身に着けた彼女とは正反対に、私は学校の制服のまま。

 まるで放課後に寄り道するような雰囲気でダンジョンに潜る姿は、普通に考えればありえないかもしれない。

「まぁ、防具なんてなくても意外となんとかなるものよ。そもそも私に合うような防具ってなかなかないのよね」

 私が普段潜っているような階層では、下手な防具なんて紙切れ同然に壊れてしまう。

 むしろ動きを阻害しない分、なにも身に着けない方がマシなことだって多いのだ。

「そういうもの、なんだね……。まぁ、穂花ちゃんがそれでいいならかまわないけど」

 微妙に納得いかない様子の凛子だけど、どうやらそれ以上は追及してくるつもりはないらしい。

「それじゃ、改めて。今から配信を始めるんで、私が呼んだら穂花ちゃんもカメラの前にきてください。その後は、その場の流れでお願いします」

「了解。私は配信なんて初めてだから、しっかりリードしてね」

 私の言葉に大きく頷いた凛子は、そのままドローンカメラに手を伸ばして電源を入れる。

 そうするとカメラは音もなく凛子の正面へと移動し、数秒後に配信を開始した合図のランプが点灯した。

「みんなー、こんりんりーん! リンリンちゃんねるの配信にようこそー!」

 それを見てすぐに配信者としての表情を浮かべた凛子改めリンリンは、カメラに向かって満面の笑みを浮かべながら両手を振る。


 ”こんりんりーん!”

 ”連日配信助かる”

 ”今日もリンリンちゃん可愛いねぇ”

 ”イレギュラーでケガしてないか心配だったけど、大丈夫そうで安心した”


「心配かけてごめんね。あのイレギュラーはすぐに助けてもらえたし、ケガも全然してないから大丈夫だよ」

 カメラから空中に投影されたコメントを読みながらトークを始める凛子を見て、私は思わず感心する。

「それにしても、ああやってコメントも見れるようになってるのね。最近のハイテクは凄いのね」

 同時に技術の進歩にも驚きながら、配信に乗らないように注意して小声で呟く。

 そうやってカメラの外から眺めている間にも、彼女は楽しそうにコメントと会話を続けていた。


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