「一番? それって探索者として? それとも、配信者としてかしら?」
「どっちも。もちろんとんでもないことを言ってる自覚はあるけど、それが私の夢で、目標なの」
私の問いかけに、彼女はまっすぐな瞳で私を見つめ返す。
その瞳は真剣そのもので、彼女の決意が嘘ではないことを示していた。
「……そう。なら頑張らないとね」
だから私は、ただ短くそう答える。
「笑わないんですか?」
「さっきも言ったでしょ。私は、人の夢や目標は笑わないって。それがどんなに荒唐無稽なものだとしても、あなたが真剣にそれを目指していることくらいは分かるから」
だけどそれはそれとして、ひとつだけ言っておかなければいけないことはある。
「それにしても、配信者はともかく探索者として一番になるなんてなんとも大胆な宣戦布告ね」
「え?」
私の言葉が分かっていない様子で首を傾げる凛子に、私はわざと意地の悪い笑みを浮かべる。
「だって、一番になるってのは私を超えるってことよ。仮にもSランク探索者の私に向かってそんなこと言うなんて、どう考えても喧嘩を売ってるようにしか聞こえないでしょ」
「いや、あのっ……! そんなつもりはなくって……!」
途端に慌てたように首を振る凛子は、なんともからかい甲斐がある。
もう少しからかってやろうかとも思ったけど、これじゃいつまで経っても話が進まない。
「ふふっ、冗談よ。むしろ私の弟子になるんだから、それくらいの気概を持っててくれなきゃ」
あいかわらず焦った表情を浮かべる凛子に微笑みかけると、安心したようにホッと胸を撫でおろした彼女はすぐに拗ねたように頬を膨らませる。
「もしかしなくても、私のことからかったでしょ」
「だって、慌てる凛子が可愛かったんだもの」
「か、かわっ!? もうっ! またからかってるっ!」
「べつに、からかったつもりはないのだけどね」
ぷりぷりと怒る彼女を見ていると、なんだか自然と笑みがこぼれてくる。
そのまま彼女が落ち着くまでコーヒーの味を楽しむと、私は再び口を開く。
「それで、探索者としては鍛えてあげるとして、配信者としてはどうするの? そっちも、誰か師匠でも居るのかしら?」
「えっと、そのことなんだけど……。穂花ちゃんにお願いがあったり、なかったり……」
ごにょごにょと歯切れの悪い口調で言葉を濁す彼女に、なんだか少し嫌な予感がする。
「この間のイレギュラーの時、配信で穂花ちゃんが映ったシーンの切り抜きがいっぱい上がってるみたいで。しかもかなり話題になって、再生数も凄いみたいなんだよね。おかげで、私のチャンネルの登録者もうなぎ上り」
「へぇ、それはよかったわね」
この後の展開を予想してしまった私は、感情の抜け落ちた棒読みで答える。
そんな私の様子に苦笑いを浮かべながら、凛子はさらに言葉を続ける。
「私の方にもDMで『次のコラボはいつですか』とか『またコラボして欲しいです』ってメッセージが殺到してて。だから、その、ねっ……」
そこまで言った彼女は、申し訳なさそうな表情にわずかな期待を込めて両手を合わせる。
「お願いします! 私と、コラボしてください!!」
またしても机に突っ伏すように深く頭を下げる凛子に、私は思わず呆れたように右手で頭を押さえるのだった。