「弟子……? それって、私に弟子入りしたいってこと?」
あまりに突拍子のない彼女の言葉に、混乱した私は思わず変な問いかけを返してしまう。
そんな私の言葉に大きくうなずいた凛子は、おもむろに立ち上がるといきなり深々と頭を下げる。
「お願いします! 私、不知火さんみたいに強くなりたいんです!」
「私みたいって……。それは止めた方がいいかもしれないわよ。私のあれは、かなり特殊だから……」
そもそも私の戦い方はスキルありきのごり押し戦法過ぎて、どう考えても普通の人間ではマネできるものではない。
それを軽く説明しながらやんわりと断ってみても、彼女に諦める様子はまるでなかった。
「そこをなんとか、お願いします!! アドバイスだけでもいいんです!」
もはや土下座しそうなほどに頭を下げる凛子は、いつの間にか店中から視線を集めてしまっていた。
そしてその視線は当然、彼女と向かい合っている私にも注がれているわけで。
「……はぁ、分かったわ。分かったから、とりあえず座ってちょうだい」
全身に突き刺さる視線の恥ずかしさと居たたまれなさに、私は早々に折れると彼女のお願いを受け入れる。
「ほ、本当ですか!? やったぁっ!!」
私の了承の言葉を聞いて勢いよく頭を上げた凛子は、そのまま満面の笑みを浮かべてなにを思ったか私に抱きついてくる。
「やった、やったぁっ! ありがとうございます、師匠!」
「ちょっ、ちょっと! 目立つから大きな声で抱きつくのは止めなさい! それと、師匠もやめて!」
「えぇー! だって、弟子にしてくれるんですよね? だったら、やっぱり師匠って呼ぶべきじゃ」
「嫌よ。師匠なんて呼ばれる柄じゃないし、それになんだか偉そうじゃない」
「うーん……。だったら、なんて呼べばいいですか? 先生? 先輩? それとも、コーチとか?」
「どれも嫌。普通に名前で呼んでくれたらいいわ。それと、敬語もいらないから」
そもそも、私と凛子は同い年だ。
それなのに私はタメ口で凛子は敬語だなんて、なんだか私が怖い人みたいに見られてしまいそうだ。
そう伝えながら彼女の身体を半ば無理やり引き離すと、少し不満げに私から離れた凛子はすぐにその笑みを深くする。
「……うん、分かった! じゃあ、穂花ちゃんって呼んでもいいかな?」
「別にかまわないわ。私も、あなたのことは凛子って勝手に呼んでるし」
「ありがとう、穂花ちゃん! えへへ、なんだかお友達になったみたいで嬉しいな」
ニコニコ笑いながらやっと私の正面の椅子に座りなおした凛子に、私はふと気になっていたことを尋ねてみることにした。
「それで、凛子はなんでそんなに強くなりたいの? なにか、目標でもあるのかしら?」
私の問いかけに、さっきまで朗らかだった彼女の笑顔が一瞬だけ陰る。
しかしそれも一瞬のことで、すぐに元の微笑みを浮かべた彼女は少し恥ずかしそうに口を開く。
「えっと、それは……。聞いても笑わない?」
「それは内容によるわ。だけど、私は人の夢や目標を笑うような人間性はしてないつもりよ」
誰にだって、人生でひとつくらいは夢や目標がある。
それがどんなに小さいものでも、荒唐無稽なものでも、本人にとってそれはかけがえのないもののはずだ。
それを笑って馬鹿にするのは、誰が許しても私の美学が許さない。
私のそんな思いが通じたのかは分からないけど、少し迷うように視線を揺らした凛子はやがて決心したようにゆっくりと口を開いた。
「……私は、一番になりたいんだ」