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第10話

「ふわぁ……、ねむ……」

 イレギュラーを解決した次の日、私はあくびを噛み殺しながら学校へと向かっていた。

 あの後やってきた救助隊に男たちを引き渡してダンジョンを出た私は、その足で受付のお姉さんのもとへと向かった。

 そこで心配そうな表情を浮かべて待っていたお姉さんに優しく抱きしめられた私は、そのまま一緒に待っていた支部長さんにことの顛末を説明する。

 配信を見ていた支部長さんは大体のことは知っているようだったけど、それはあくまで最後の戦闘だけ。

 その道中で私がどんなモンスターをどれだけ倒したかを記録することで、今後のイレギュラー対応に活かすらしい。

 というわけで、その日はかなり遅い時間まで支部の奥にある応接室を借りて報告書を書かされたのだ。

 夕食は支部長さんの奢りでちょっと豪華な食事を頂いたし、最後はタクシーで家まで送ってもらえたけど、それよりも睡眠時間を削られてしまったのが痛い。

 ダンジョンで戦った後はできればぐっすり寝たかったけど、学生という身分である以上は学校へと通わなければいけない。

 別に私としてはいつでも辞めてしまってもいいとは思ってるんだけど、管理局のお姉さんからはちゃんと卒業することを強くオススメされている。

 曰く、「高校生の時にしか体験できない素敵な日常があるんだから」だそうだ。

 こればっかりは、いくら探索者としてお金を稼いでいても手に入れられないもののひとつと言えるだろう。

「まぁ、探索者だっていつまで続けられるか分からないし……。せめて高校くらいは卒業しておかないとね」

 私としても、これからの長い人生を考えればせめて『高卒』という称号は取っておくに越したことはないとは思っている。

 若者が憧れる職業ランキングで常にトップクラスに位置する探索者だけど、その内情は非常にシビアだ。

 そもそも探索者になるだけなら国の機関である『迷宮管理局』に申請すれば、簡単な審査だけで資格を得ることはできる。

 さらにその審査の過程で、ほとんどの人間が『スキル』と呼ばれる不思議な力に目覚める。

 その資格とスキルがあれば自由にダンジョンに潜ることができるし、ダンジョン内で手に入れた物の売買だって可能だ。

 そして条件付きとはいえ、武具の所持だって認められる。

 うまく立ち回ることができれば、一攫千金だって夢ではない非常に魅力的な職業に思えるだろう。

 しかし、世の中そんなにうまい話ばかりではない。

 大きな収入を得ることができるということは、それだけ多くのお金が動くということだ。

 探索者の資格を得た者は、ダンジョンで得た一年間の収入に応じて探索税の納付が義務付けられている。

 探索者としてのランクを上げることでその税率を下げる優遇措置はあるのだけど、Cランク以上になると今度は国からの協力要請を受けなければならない。

 それが少しだけ面倒くさいとはいえ、それだってそこまで頻度が高いわけではない。

 なにより、ランクを上げれば入場を許可されるダンジョンも増え、結果的に稼げる額も大きくなっていく。

 だから探索者たちは、こぞってランクを上げようと躍起になるのだ。

 まぁ、中には私のようにほとんど強制的にランクを上げられた例もあるのだけれどそれはまた別の話だ。

 なんてことをつらつらと考えながら歩いていると、いつの間にか自分の教室までたどり着いていた。

 ガラガラと扉を開けて教室の中に入ると、ワイワイと談笑するクラスメイトの脇をすり抜けるように自分の席へと向かう。

 その瞬間、一瞬だけ静まり返る教室内。

 しかしそれも本当に短い時間だけで、クラスメイト達はすぐにさきほどまでの談笑へと戻っていく。

 本当に、ありがたいことだ。

 最年少Sランク探索者となった当時は、クラスメイトどころかクラス外からも多くの人が私のもとへと集まってきた。

 それも最初は少し誇らしかったけど、すぐに煩わしさの方が勝ってしまった。

 そのせいで集まってくる彼らを適当にあしらい続けた結果、今のような相互不干渉へと落ち着いたのだ。

 今でもたまにチラチラと視線を感じることはあるものの、せいぜいそれくらいだ。

 それはそれで見世物になったようで落ち着かないけど、それくらいなら甘んじて受け入れよう。

 自分の席に座った私は、なにをするでもなくスマホを弄りながら授業までの時間を潰すのだった。


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