今回の戦いだって右腕は切り飛ばされるわ、左腕には鎌が食い込むわ、おおよそ乙女の戦い方ではなかった。
止めの刺し方だって、力任せにメイスで殴ってカマキリヘッドをホームランしただけだ。
もっとスマートに戦えればと思っているんだけど、いざ敵を目の前にするとどうしてもテンションが上がっちゃうんだよね。
そんな私の反省とは裏腹に、女の子はキラキラとした瞳で私を見つめてくる。
「そんなことないですっ! 不知火さんの戦いすっごくかっこよくて! 私、一瞬でファンになっちゃいました!」
「そ、そう……? それは、ありがとう……?」
そのままグイグイと攻められて、私は困惑したまま思わずお礼の言葉を口にする。
「本当に、本当にかっこよくって……。不知火さんだって女の子なのに、私っては女の子相手にずっとキュンキュンしちゃって……! 今だって、まだ胸がドキドキしちゃってるんです!」
「分かった! 分かったからっ! とりあえず、イレギュラーは収まったとはいえまだ危ないかもしれないから、今日はもう帰りなさい」
興奮冷めやらない女の子の様子に少し危ないものを感じながら、私は彼女を落ち着かせるように務めて冷静に声を掛ける。
そんな私の努力が通じたのか、落ち着きを取り戻した彼女は少し気まずそうに頬を赤らめる。
「ご、ごめんなさい。私っては、興奮しちゃって……」
恥ずかしそうに小さくつぶやく彼女はなんだか小動物みたいで、私は思わず笑みを零してしまう。
「いいじゃない。元気があることは素敵なことよ。それも、さっきまで死の恐怖に晒されていた直後にそれだけ明るくふるまえるなんて。探索者としての才能がある証拠よ」
果たしてそれが、年頃の女の子にとって喜ばしいことなのかは分からない。
それでも目の前の彼女は、私の言葉に嬉しそうに笑顔を浮かべた。
「ありがとうございます! 私、もっと強くなれるように頑張ります!」
「ええ、頑張って。……それじゃ、あなたは先に帰りなさい」
「え? でも、あなたは……」
「私はこのお馬鹿さん二人を、管理局に引き渡さなきゃいけないから。不本意だけど、救助隊が来るまで待ってから帰るわ」
別にこのまま放置して帰ってもいいのだけど、それで万が一にでも死なれてしまったら寝覚めが悪い。
それに、管理局からの避難指示に従わなかった件についてもきっちり説教してもらわなくちゃ。
「だから、私のことは気にしないで大丈夫。道中のモンスターたちは一掃してあるはずだから、今ならたぶん安全に帰れるわ」
「……分かりました。じゃあ、また明日!」
最後に一瞬だけ迷ったような表情を振り切るようにして、彼女は明るく手を振りながらダンジョンの出口へ向かって走っていく。
「念のため、ダンジョンを出るまで警戒は怠らないようにね!」
そんな彼女に手を振り返しながら、その背中に声を掛ける。
そうやって何度も振り返りながら手を振る少女が見えなくなって、一人になった私はふとあることに引っかかった。
「……あの子、また明日って言ってなかった?」
独り言のように呟かれた私の疑問は、ダンジョンの壁に吸い込まれるように誰に聞かれることもなく消えていった。