霧散していく嫌な空気に小さく安堵のため息を吐いた私かが振り返ると、そこでは女の子がキラキラとした表情でこちらを見つめていた。
「すごい……。すごいですっ!」
しきりに褒め称える声を聞いていると、なんだか背中がムズムズしてくる。
「別に、これくらいどうってことないわ。それより、怪我はない?」
パッと見たところ大丈夫そうだけど、状況が状況だけに万が一ということもある。
それに良く見れば彼女の全身は泥に汚れ、服もところどころ破れてしまっている。
サッと彼女の全身に修復術を掛けると、私はポケットからスマホを取り出す。
そのまま慣れた手つきで電話を掛けると、ワンコールも終わらない早さで繋がる。
「あぁ、支部長さん。終わったわ」
まるでお使いでも済ませたような軽い口調で告げると、電話口からはすでに落ち着いていた支部長の声が聞こえてきた。
『はい、こちらでも配信を通して確認しました。お疲れ様です』
「配信? あぁ、あれね……」
支部長の言葉に視線を巡らせると、少し離れた場所にカメラが浮いていた。
「止めろって言ったのに……。壊していいかな、あれ」
『一応は他人の私物ですので、戦闘中の事故ならともかく故意の破壊は駄目ですよ』
「わかってるって。ちょっとした冗談でしょ」
支部長と軽口を交わしながら、私はカメラに近寄るとそっと手を伸ばす。
そのまま電源を切ると、役目を終えたカメラは私の手にすっぽりと収まった。
「これで電源切れたのよね? ……ちなみに、あなたはまだ配信してるの?」
まだ気絶したまま地面に突っ伏している男たちの近くにカメラを置いた私が振り返りながら尋ねると、女の子は思い出したように慌て始める。
「あっ!? ごめんなさいっ! いきなりモンスターが出たから、切るの忘れてました……。すぐ切りますねっ!」
「別に、そんなに慌てなくても大丈夫よ。撮られて困る訳じゃないし、そもそももう一部始終撮られちゃったし。なんなら、締めの挨拶? ああ言うのもやって貰ってもいいし」
「ほ、本当ですか? 助かります」
私の言葉に少し嬉しそうに頭を下げた女の子は、そのままカメラに向かって笑顔を見せる。
「じゃあそう言うわけで、ごめんだけど配信はここで終わりね。イレギュラーなんてトラブルはあったけど、この通り私は怪我ひとつなく無事だから安心して。じゃあ、また次の配信で!」
満面の笑みを浮かべてカメラに手を振った彼女は、そのままカメラの電源を落とすとふぅっと小さく息を吐いた。
「これでよしっと……。無断で映しちゃって、本当にすいませんでした」
「いいのよ、気にしないで。あなたがカメラを切っていたとしても、どうせあそこで伸びてるバカ二人のカメラでばっちり放送されちゃってたから」
どうせ撮られてしまうなら、カメラの数がいくつあっても大した問題ではない。
「むしろ、私としてはあなたのほうが心配よ」
「え? 私ですか?」
「ほら、私の戦い方って配信向きじゃないというか……。あなたは直接見てたから分かるだろうけど、ちょっと、……ううん、だいぶグロいでしょ」