「ぐえっ!?」
「ぎゃっ!?」
投げ捨てた男たちが地面にぶつかる汚い声を背後で聞きながら、私は油断なく目の前のモンスターと対峙していた。
「あれ、グレードマンティスね。下層の奥にしか出てこないはずなのに、これがイレギュラーの元凶かしら?」
ギラギラと光る鎌を掲げながらこちらへ向かって威嚇を繰り返すグレードマンティスを見つめながら、私は冷静に呟く。
そんな私の言葉に反応して、背後に庇った少女の身体がビクッと震える。
「下層……!? そんな強いモンスター、大丈夫なんですか?」
「問題ないわ。あなたは、私の後ろから出ないようにね」
それだけ言ってメイスを構えた私は、目の前のカマキリに向かって勢いよく駆け出す。
カマキリも私の動きに反応して鎌を振り上げようとするが、その動きは遅い。
一気に距離を詰めた私がメイスを振り下ろすと、金属を殴ったような鈍い音とともにカマキリの身体が揺れる。
「チッ、やっぱり硬いわね! ほんと、嫌になっちゃう!」
硬い外殻に弾かれた衝撃を感じながら、それでも私のやることは変わらない。
「いくら硬くても、殴り続ければいつかは倒せる!」
ガンッガンッと鈍い音を響かせながらメイスがぶつかり、その度にカマキリの身体は衝撃に揺れる。
それでも、流石は下層のモンスターといったところだろう。
タコ殴りにされているにも関わらず鎌を振り上げると、その刃は正確に私の腕を捉える。
凄まじい切れ味を持ったその刃が触れれば人間の皮膚などひとたまりもなく、まるで豆腐を切るようにあっさりと私の右腕は両断されてしまった。
「キャアアァァッ!?」
その光景を見て、私の代わりに後ろの少女が大きな悲鳴を上げる。
そんな悲鳴を背中に聞きながら、私は
「ギッ!?」
私の全力の攻撃でメイスの先端はカマキリの身体に食い込み、割れた外殻からは紫色の体液が飛び散る。
「やっと砕けたわね。それじゃ、もう一撃ッ!」
追い討ちをかけるためにメイスを振り上げる私に、そうはさせまいとカマキリもその鎌を振るう。
首を目掛けて寸分違わず振るわれたその鎌を左手で受け止めると、凶刃は手のひらを切り裂いて深々と腕に食い込んで止まる。
「ふっふっふっ。捕まえたぞ、このヤロー!」
腕に食い込んで動きの止まった鎌、その関節部分に向けてメイスを振り下ろすとゴギッという鈍い音とともにカマキリの腕が折れる。
「ギギィッッ!!」
その勢いのまま跳ね上げるようにメイスを振り上げると、その先端は悲鳴のような声を上げるカマキリの首に食い込んだ。
「これで、終わりっ!」
そのまま力任せにメイスを振り抜くと、やがてカマキリの首は千切れて衝撃で頭は彼方へと飛んでいく。
残った胴体も少し遅れて地面に倒れると、そのまま霧のように消えてしまう。
同時にダンジョンを包んでいた嫌な気配も消え、残ったのはゴルフボールくらいの大きさをした魔石と血塗れになった私の左腕だけ。
どうやら、今回のイレギュラーはこれで終息したみたいだ。