イレギュラー。
それはダンジョンに関わる者であれば誰だって起こって欲しくない最悪の前触れだ。
モンスターの大発生や強力なユニークモンスターの出現、さらにはダンジョン自体の崩落など。
内容に違いはあれど、そのどれもが放置すれば大惨事に至ってしまうような危険な現象だ。
そのため、ダンジョンそれぞれに併設された管理局の支部は常にダンジョンの状態を確認し、異常があれば即座に対応する必要があった。
支部長の言葉に、周りに居た職員さんたちが慌ただしく動き始める。
それはお姉さんも同様で、さっきまで私とのんびり雑談をしていた人と同一人物とは思えないほどキビキビと周りに指示を出していた。
そして私も、この場に居合わせた以上は自分にできることをしよう。
「今からすぐにダンジョンに潜って、イレギュラーの対処にあたります。良いですよね?」
「はい、もちろんです! むしろ管理局から、緊急依頼と言うかたちでお願いします。できれば道中で、他の探索者への避難勧告もお願いしたいのですが」
「了解です。じゃあ、これからすぐに出発します!」
言うが早いかダンジョンの入り口へと走り出すと、そんな私の背中に向かってお姉さんが声を上げる。
「穂花ちゃん、イレギュラーは中層の辺りで発生した可能性が高いわ! どんな状況かはまだ分かってないから、怪我だけはしないように気を付けてね!」
心配そうなお姉さんに向かって小さく頷いた私は、そのままダンジョンの中へと駆け込んでいった。
────
ダンジョンの上層を一気に駆け抜けた私は、そのまま速度を維持したまま中層を走っていた。
途中で見かけた探索者たちに声を掛けながら進んでいくと、やがて肌で分かるほどの魔力異常を感じる。
「あっちね。急がないと……」
そちらの方向に向かって駆け出すと、まるでそんな私を遮るかのように複数のモンスターが道を塞ぐ。
ここまではできるだけモンスターを避けて進んできたけど、これはさすがに避けられそうにない。
いつもであればゆっくりと相手をしてあげるところだけど、今は残念ながらそんな暇はない。
「もう、邪魔っ!」
腰に差したままだったメイスを引き抜くと、その勢いのままモンスターの頭へ向けて振り回す。
その攻撃を防ごうとモンスターが防御姿勢を取るが、そんなことなどお構いなしにメイスを振り下ろす。
振り下ろされたメイスは防御ごと押し込むようにモンスターの頭を捉え、そのままスイカを割るみたいに叩き潰した。
グチャッと生々しい水音とともに潰れた頭からは赤い体液が吹き出し、わずかに遅れて首から上がなくなった身体が地面に倒れる。
その姿を確認することなく、私は次のモンスターに向かって駆け出していた。