「ねぇ、
いつも通りダンジョンで手に入れた素材の買取査定を待っていると、顔見知りのお姉さんがそうやって声をかけてきた。
「いや、ないですね」
暇つぶしにと携帯端末を弄っていた私は、そんなお姉さんの唐突な質問に思わず素っ気ない態度で答えてしまう。
そんな私の答えを予想していたのか、お姉さんは分かりやすく肩を落として落胆してしまった。
「だよねぇ。穂花ちゃんクラスになれば、配信なんかしなくても充分稼げてるもんねぇ」
「というか、そもそもなんで急にそんなこと聞いたんですか?」
普段からこういった待ち時間にはよく雑談をする仲だけど、それにしたって今日はあまりにも唐突すぎる。
あまりの脈絡のなさに、いくら知らない仲ではないとは言えなにか裏があるのではないかと勘ぐってしまう。
伊達にこれまでソロで活動してきたわけじゃなく警戒心だけは人一倍強いんだ、私ってやつは。
そんな風に警戒をあらわにする私の疑問に答えるように、お姉さんは大きなため息をつきながら苦笑いを浮かべる。
「それがさぁ、聞いてよ。ちょっと前から、若い子を中心にダンジョン配信が流行ってるじゃない? ついこの間なんか、それ専用の動画投稿サイトができたりなんかしちゃって」
「ああ、なんでしたっけ? メイQ動画でしたっけ?」
ちょうど手に持っていた端末で軽く調べると、そこに表示された派手でポップなサイトのトップページを覗き込んだお姉さんが大きく頷く。
「そうそう、それよ。その影響で、最近は特に配信目的の探索者や探索者志望の子が多くなっちゃったのよ」
「それは別にいい傾向なんじゃないですか? 探索者が増えれば、それだけダンジョンの攻略も進んで得られる素材も増えますし」
素直な感想を口にすると、お姉さんは同意するように小さく頷く。
「そうなんだけどね……。残念ながら、それだけで話は終わらないのよ」
本気で面倒そうな口調で吐き捨てるお姉さんの様子に、これ以上話を聞くのが躊躇われる。
正直、もうさっさと話を切り上げて帰りたい。
しかしまだ査定が終わっていないからにはそう言うわけにもいかず、私はただお姉さんの愚痴を聞き続けることしかできない。
「ダンジョン配信が流行るのは良い。探索者が増えるのだって、多少は忙しくなるけど大歓迎よ。でも、だからってなんで管理局主体で公式の配信者を探さないといけないのよ!」
ダンッと拳で机を叩いたお姉さんの嘆きを聞いて、私はやっと話の繋がりを理解した。
「なるほど。それで私に、ダンジョン配信に興味ないかを聞いてきたんですね」
つまり私は、危うく管理局の御輿に担ぎ上げられそうになっていたわけだ。
ふぅ、危ない危ない。
心の中で安堵のため息をつく私に、お姉さんは瞳に涙を浮かべて頷く。
「そう! そうなのよ! ……だから穂花ちゃん。公式配信者になってみない?」